安全文化を根付かせるための新たなアプローチ方法

2015年3月5日、東京都・品川フロントビルで安全管理責任者向けセミナー「何故、決められたルールを守れないのか? ~安全文化を根付かせるための新たなアプローチ方法~」が開催された。主催するデュポン株式会社サステナブルソリューション事業部・東南アジア・日本地域ビジネス・ダイレクターのニルス・スタインブレッヘ氏と同・カルチャー&チェンジマネジメント担当グローバルリーダーのロッド・グティエレス氏が、グローバルに展開するデュポン社の安全管理システムを紹介した。

安全性の向上に進んで取り組むマネジメントシステム
黒色火薬の製造からはじまったデュポンの創業は1802年。高い研究開発力をベースに合成繊維や合成樹脂など数々の世界的ヒット製品を世に送り出してきた。デュポンの核となる価値観の1つに安全がある。1811年には「トップマネジメントが安全な操業を確認したうえで従業員に操作させる」という最初の安全ルールを設け、安全統計を開始するなどこれまで200年にわたり安全文化を育んできた。1940年代に「全ての怪我は防げる」という原則を確立。現在は「Committed to Zero」を掲げ、単純な目標にとどまらせず社員一人ひとりが事故ゼロに取り組んでいる。

Part1 セーフティ・エクセレンスへの道のり
講師:ニルス・スタインブレッヘ氏

「私たちには安全性を向上させる独自のシステムがあります。より健康的で安全な生活に協力できます」と語ったのはニルス・スタインブレッヘ氏。デュポン・ブラッドリーカーブ(DuPont Bradley Curve)を提示し「みなさんの会社はどのステージにあると思いますか」と尋ねた。ブラッドリーカーブとは、なぜ会社や現場によって安全性や生産性などの差が生じるのかをデュポンが調べ上げ作製した図。提示されたスライドには現場文化の違いと安全性との関連を示してある。起きた事故にだけ反応する反応型、上司の指示にだけ従う依存型、自分の知識や経験をもとに自発的に行動する独立型、仕事をする仲間までも気遣える相互啓発型の4ステージに分かれている。安全管理上、現場を独立型のステージにまで向上させる重要性を説明。その実現のために必要なセーフティ・エクセレンス(Safety Excellent)*とフェルトリーダーシップ(Felt Leadership)を紹介した。「セーフティ・エクセレンスを構成するのは1.統合的なマネジメントシステム、2.予知の文化、3.オープンかつ協力的な文化、4.職務規律と安全文化」だとニルス氏は語る。

フェルトリーダーシップとは何かを説明するために会場で流した動画では、フォークリフトを乱暴に扱い製品を倒す運転者とそれを見つけた社員が登場する。社員が運転者と話し合い、議論を重ねて納得させ、運転者はより安全にフォークリフトを操作する。この社員の会話にフェルトリーダーシップのエッセンス(容易に観察できる、安全に対する信念を明確に行動で示す、従業員に対して肯定的な印象を与える、個人的なコミットメントを行動で示す、組織に浸透させる、すべての階層の従業員に影響を与える、すべての階層の従業員を巻き込む)が組み込まれていた。

ニルス氏は「安全性の向上が優れた業績に結びつく」と、世界各国での安全文化の定着方法の違いなどの経験談を交えながら話した。

Part2 安全文化を発展させるための新しい統合的アプローチ
講師:ロッド・グティエレス氏

ロッド・グティエレス氏は心理学者。デュポンの提供する安全管理システムの新たなアプローチを解説した。デュポンがこの安全管理で約30年間にわたって利用してきた方法がBehaviour Based Safety (BBS)。観察とフュードバックによる改善方法だ。

職場の安全性を高めるためにBBSが重点を置いているのが自発的な取り組み。安全に対する行動は、十分に管理された長期間にわたる段階的な方向付けによって変化し、その仕組みには反復学習は欠かすことができない。行動の変化によって思考が変化する━これがBBSの基本原則だ。

職場の安全性を高める上で重要なポイントは報酬のバランスだ。報酬の効果は与える間隔や頻度によって変わり、サプライズなどによる学習効果が劇的に効果を高める。また、正の強化と負の強化も重要になる。正の強化とは良い結果を伴う行動により安全行動が促され、負の強化とは負の結果を意識させ、安全行動を導く。シートベルト着用の警告ランプが負の強化の例だ。このうち最も長期的な学習効果が高いのは正の学習効果だという。

しかし、BBSにも限界がある。なぜならBBSは結果に対する恐怖という外因的なメカニズムを利用して安全行動を促す。この方法は個人の選択や認知プロセスを回避していることが多く、その効果は3~7年で安定し頭打ちになる。BBSの中止や慣れが原因だ。

より高い安全管理のためにブラッドリーカーブにある依存と非依存の境界に注目。この境界を越えるためには従業員の内発性が必要だという。現在は、これまでの事業経験と最新の研究から最も効果的なアプローチ、BBSの原則と心理学的な側面を合わせた方法を採用している。目標は個人が率先して自分自身の安全と周囲の安全に気を配り、適切に評価を下せ、対応できる人材の育成と企業の成長だという。

そのためにはルールや規則、状況認識、信念と姿勢、行動を中心に、リーダシップコミットメントや物理的環境や社会的文脈、組織固有のリスクを包含する統合的アプローチが安全管理において重要になるという。

ロッド氏は「安全は単純に人々が何をするかだけではなく、職場という社会的文脈の中で何を考え、何を信じ、何を選択するかを考えることだ」と語った。

*安全における世界最高レベルの優良企業のこと。リスクを最小化して、企業価値を最大化することを指す