◇トップと身体張った議論できず

謝罪問題と並んで重大な問題は言論の自由にも関わる池上コラムの掲載拒否だ。報告書は、池上氏に連載コラム「新聞ななめ読み」で慰安婦問題の検証記事を論評してほしいと依頼したのは朝日新聞側であり、慰安婦問題を論じた池上コラムは14年8月29日付朝刊に掲載される予定だったなどの事実関係を明らかにした。

それによると、池上氏は27日午後、朝日新聞の担当者に原稿をメールで送信。担当者は「過ちは潔く謝るべきだ」との見出しを付けた。当時経営幹部は8月の検証記事に対する他の新聞などの反応を注視しており、池上コラムについても杉浦信之編集担当ら危機管理を担当していた役員と木村社長らが目を通した。

27日夕方になって木村社長が掲載に難色を示し、見出しをマイルドにするという妥協案も退けた。渡辺勉ゼネラルエディター(GE)兼東京本社編成局長は杉浦担当に対し、「原稿を載せなかった場合、慰安婦を巡る問題の議論が言論の自由を巡る問題に変わってしまう」と掲載を主張したが、杉浦担当は「これ(掲載拒否の判断)は経営上の危機管理の観点からなされたものだ」と押し切った。

木村社長は9月11日の記者会見で、自分はあくまで感想を述べただけで掲載見送りを決めたのは杉浦担当だと説明したが、報告書は「編集部門は(池上氏の原稿を)そのまま掲載する予定であったところ、木村が掲載に難色を示し、これに対し編集部門が抗しきれずに掲載を見送ることとなったもので、掲載拒否は実質的に木村の判断によるもの」と認定した。やはり「謝罪」となると経営トップとしての責任問題が浮上するので、これを警戒したということではないか。

報告書は編集部門の対応にも触れ、「可能な限り意見を述べ、議論を尽くして、掲載拒否の結果を招かないよう努力すべき」であったが、「努力が十分とまではいえない」とトップの“暴走”を止められなかった責任を強調している。

特に、田原総一朗委員は報告書の個別意見で、謝罪問題と池上コラム問題の双方に関して「問題は最高幹部の判断が誤りであったと同時に、編集部門のスタッフがなぜ最高幹部の誤りを指摘してとことん議論を尽くすことが出来なかったのか、ということだ」と指摘。その上で「最高幹部と身体を張った議論が出来なかったことこそが朝日新聞の問題体質であり、最高幹部が辞任しただけでは体質改革にはならないのではないかと強く感じている」と警鐘を鳴らした。

5. 木村社長の記者会見
 (2014年9月11日)

◇慰安婦誤報を主テーマとした会見は開かず

木村社長が慰安婦誤報に関し、記事を取り消しながら謝罪の言葉がなかったこと、取り消しが遅きに失したことについておわびを表明したのは、14年9月11日の福島第一原発事故に関する「吉田調書」をテーマとする記者会見の場だった。木村氏の社長在任中は、慰安婦誤報問題を主なテーマとした会見は開かれなかった。

この点ついて報告書に言及はないが、読者への説明責任を果たすためにも、また危機管理という観点からも、慰安婦問題を主なテーマとした会見を開くべきだった。「吉田調書」の誤報を謝罪した“ついで”に慰安婦誤報も謝罪した形になったため、記者団とのやり取りも中途半端なものとなってしまい、正式な「けじめ」も先送りされてしまった。