この記事に対しては、読者から「食事をも与えられない場合はどうすか」など、さまざまな質問や意見が寄せられ、筆者や専門家が、その質問に対してさまざまな回答、ヒントを掲載している。
 
記事を翻訳したサニー神谷氏は、国内でテロ対策や誘拐対策の危機管理コンサルティングを行っているが、「国内で公表されているさまざまなリスク管理マニュアルは、こんなときは具体的にどのような選択肢があるのか?というリアルな対処法までは紹介されていないように思う」と指摘する。

この記事以外のマニュアルでは、例えば「思いっきり大声を出して、暴れてみる。できれば、鼻や目を攻撃し、相手がひるんだ隙に攻撃する。※日頃から大声を出す練習をしていないと声が出ない」という記述まで載せているものもあるそうだ。また、拉致された瞬間の対処法としては、拉致された瞬間に犯人が一人で武器を持っていない場合は「思いっきり暴れる」、または、ナイフやカッター、金槌などの武器を持っている場合は「逃げられる状況(犯人が武器を持っていない状態)になるまで大人しくして、逃げられるタイミングが来るまで様子をうかがう」といった選択肢を提示し、状況に応じた対応の重要性を説いているものもあるという。
 
神谷氏は「いずれも、100%確実な対処法ではないが、少しでも、逃げられる可能性を高め、また、傷害を受けたり殺されることを避けることができると思われる内容である」と評価する。ちなみに、日本における誘拐事件は女子の幼児・小児が圧倒的に多く、犯罪者は若い男性で武道経験者ではないため、比較的、きゃしゃで弱い力あること、いじめられていた経験があったり、引きこもりがちであったり、すぐに切れやすい、思い込みが激しいなどの人格傾向がほとんどであり、武器といっても銃が使用される可能性は低いなどのことはわかっている」とする。
 
日本にはなぜリアルな事態を想定したマニュアルが存在しないのか?

こんな疑問に、神谷氏は「リスク管理マニュアルの作成者に現場経験が無いためにイメージできないことも理由にあると思うが、リスク管理マニュアルの作成時に事件報告書を読んだのみ、または、当事者インタビューも行っておらず、実際に被害者の心から伝わってくるものを十分に表現し、悲惨な経験を未来の予防に活かすなどの作業が行われていないのではないか」と持論を展開する。
 
では、具体的に海外出張、海外在留リスク管理の基礎とは何か。
「まず、海外出張、海外支社のリスク対策、最低限の保険的知識として、その国に起こりうるリスクを具体的に想定し、それに応じたシミュレーション訓練を関係社員とその家族に行う必要がある」と神谷氏は語る。

会社の役員なら、世間を騒がせるような大きな事件が起きた場合、そのニュースが繰り返し報道されるたびに、「もし自分の会社だったら」と危機感を持つべきだとする。

メディアや賠償責任保険会社から「十分なリスク対策を取っていたのか?」と質問されたとき、きちんと防犯&防災両方のリスク対策行っていたことの証明や、インタビューの機会を活かして、会社の宣伝をできるくらいになっておくことが重要だ。

一般社団法人 日本防災教育訓練センター代表理事 
国際消防&防災ジャーナリストサニー神谷氏
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Tel : 03-6432-1171