北海道胆振東部地震では道内全297万戸が停電となった(画像出典:写真AC)



今年(2018年)9月6日早朝に北海道の胆振地方で発生した地震(北海道胆振東部地震)では、最大震度7を記録し、41人の方が亡くなるという、大きな被害が発生した。そして民間企業においても、北海道全域で停電が発生するなど、経済活動に大きな影響を受けた。今回は、今後企業のBCPを考える上でも多くの教訓を残した「大規模停電」について総括してみたい。

1.北海道胆振東部地震の概要

(北海道庁が2018年10月29日に発表した資料より)
発生日時:2018年9月6日午前3時7分
震源地:北海道胆振地方東部(北緯42.7度・東経142.0度)
震源の深さ:37km(暫定値)
地震の規模:M6.7(暫定値)
震度7:厚真町
震度6強:安平町、むかわ町
震度6弱:札幌市東区、千歳市、日高町、平取町
震度5強:札幌市清田区、白石区、手稲区、北区、苫小牧市、江別市、三笠市、恵庭市、長沼町、新ひだか町、新冠町
人的被害:死亡41人・重傷18人・軽傷731人
建物被害(住宅被害):全壊409棟・半壊1262棟・一部損害8463棟
電力:最大停電戸数:約295万戸(9月6日午前3時8分時点)
水道:最大6万8249戸で断水等

2.北海道全土停電の影響

今次地震被害の最大の特徴は、地震直後に苫東厚真火力発電所で火災が発生し、それに連動する形で、道内各所の発電所が電力供給を停止したことにより、北海道全土(約295万戸)で停電が発生したことである。そのため、鉄道、空港等の機能が停止したことにより、波及的な被害が拡大したことが挙げられる。

全道が停電となったことで、工場等での操業停止が頻発し、生産が大幅に停滞した。更に、鉄道、航空便の停止により、物流にも大きな影響が出たことにより、一部業界ではサプライチェーンが寸断される事態となった。

また、停電の影響で店舗・宿泊施設等の営業も限定的となり、道民の社会生活にも影響を与えた。さらに交通機関が大幅な運休となったこと等により、観光客のキャンセルも相次ぐ事態となった
加えて、生鮮食品の供給元である北海道全土で停電となったことで、乳製品、魚介類等の保管・保存ができず、出荷・配送が遅延する状況も加わり、これらを総合した経済的な損失は甚大なものとなった。

3.  大規模停電の影響

日本の1人当たりの電力消費量は、2015年時点で7464kwhであり、先進7カ国(G7)の中では、カナダ、米国に次いで、3番目に多い国となっている。そのため、日本はもともと、電力への依存度が相対的に高い国と言える。

とくに日本では、2016年時点で家庭用用途別エネルギー消費量において、家電・照明他(洗濯機・衣類乾燥機・布団乾燥機・テレビ・VTR・CDプレーヤー・DVDプレーヤー・掃除機・パソコン等)が全体の35.1%を占めており、このことからも、電力が市民生活に密着していることが分かる。

一方、日本では停電は非常に少ないのが実情である。電気事業連合会及び海外電力調査会のデータでは、日本の1戸あたりの停電回数は年0.13回(2015年)で、ドイツの0.37回、英国0.72回、フランスの0.74回、米国(カルフォルニア州)の0.965回等と比べ、抜きん出て、停電の回数が少ないことが分かる。

日本では消防法、建築基準法等で非常用自家発電設備の設置が義務付けられている。こうした対象設備を有する企業等は当然、自家発電設備が設置されているが、それ以外では、企業等の判断に任されている。

自家発電装置を設置していなかった企業等では、営業面、生産面、供給面等、あらゆる面で甚大な影響を受ける事態となった。また、観光業でも鉄道、航空便の運休、運航停止が発生したこと等により、ホテル等の観光地でのキャンセルも相次ぎ、その面でも企業側に大きな損失が発生した。

また、非常用に設置していたとしても、停電時に自動的に切り替えができず途切れてしまったり、自家発電の燃料となる軽油・重油等を十分に確保できておらず電力復旧まで電力を維持できなかったという例が見られた。

これらのことから、社会生活だけでなく、企業活動面でも電力の重要性が再確認され、更に、自家発電設備の必要性も再確認されたと言える。

4. 大規模停電に学ぶ企業リスク
教訓1:電力供給代替機器等の重要性

今回の地震においては、携帯電話・スマホ等の充電のため、道民が市役所、区役所等に長蛇の列を作っていたことが報じられている。

また、ほとんどの小売店舗では、その多くが停電の影響で営業ができなくなる状況となったが、一部コンビニチェーンでは、全店にガソリン車につないで、車を空運転させると発電できる非常用キットを常備していたため、必要最小限の機器(レジ等)を使えるようにして、全店舗の95%の店舗で営業が続けられた例もあった。また、電気自動車(EV)による給電で、急場をしのんだ例もあった。

このように、自家発電装置を常備していなかった場合でも、多種多様な停電対策が今後も検討するべきであると言える。

 教訓2:現金決済の重要性

大規模な災害時においては、日本銀行が「災害時における金融上の特別措置」を金融機関に要請することになっている。今回の地震においても、地震当日(9月6日)、日本銀行より、「平成30年北海道胆振地方中東部を震源とする地震にかかる災害に対する金融上の措置について」が出され、その中で、金融機関に対し、「預金証書、通帳を紛失した場合でも、災害被災者の被災状況等を踏まえた確認方法をもって預金者であることを確認して払戻しに応ずること」を要請した。

そのため、被災者がキャッシュカード・通帳・印鑑をなくした時でも、本人確認ができれば、一定額の現金を引き出せることとなっており、被災者にとって、非常に有益である。

一方で、昨今日本ではクレジットカード、電子マネーでの決済が増加しており、金融機関が大規模災害時に緊急時措置として、現金を払い出す必要性については、一部では懐疑的な報道も見られた。

しかし今回の地震では、大規模な停電のため、クレジットカード、電子マネーの端末が使用できなかったことから、再度、現金の有効性が再度、見直される結果となったと言える。

(了)