営業を継続
「社員の安全」がBCPの鍵

東日本大震災では日本たばこ産業株式会社の被災により、輸入たばこの需要が一気に高まった。フィリップモリスジャパン株式会社(本社:東京千代田区)は、東日本地域での営業が一時的に中断したが、BCP に基づいて早期に事業を再開させた。同社の震災対応からは「外資系企業」特有の社員を守る姿勢が見てとれる。

■トップ10 人のリスク対策
同社は、スイスに本部を置くフィリップモリスインターナショナルのたばこ製品の販売促進およびマーケティング活動を行う。東京都千代田区の本社を含め、全国に4 カ所の営業拠点を持ち、全社員約1800 名のうち1200 名が営業職で構成されている。主な事務的機能は東京本社が担い、BCP を含むリスクマネジメント業務については本社のヒューマン・リソース(以下、人事部)が担当している。

BCP では緊急発生時には、社長をトップとした各部署の幹部10 名を中心とするSSMT(Special Situation Management Team)が組織されることが決められている。SSMT はBCP を基に同社全体の復旧方針を決定し、全社員に一元的なメッセージを発信する指示系統の役目を果たす。メンバー全員が常に連絡がとれるように、社内と自宅に業務用無線機を所持させているなど緊急時の連携を徹底して
いる。今回の震災でもSSMT のメンバーが地震発生後すぐに本社にかけつけ、東日本地域の業務が通常に戻る3 月24 日まで、全社のリーダーとして動いた。

■最優先は「通信機能の復旧」
同社の本格的な事業継続体制の確立は、2005 年にフィリップモリスインターナショナルが世界規模でリスクマネジメントの構築を呼びかけたことで始まった。同年に地震を想定したBCP を作成し、その後、徐々に想定範囲を広げ、パンデミック対策や製品ラインの事故が原因による製品の欠陥対策など、毎年テーマを変えて訓練を実施してきた。

最優先業務となるのは「メールおよびネットワークシステムの復旧」と「通常営業地域への製品提供やサポート」。目標復旧時間は、前者が発生から1 日、後者が3日以内としている。

幸いにも東日本大震災では、メールシステムへのダメージはなかった。そのため、全社員の安全を確保し、できるだけ早く通常営業地域へ製品提供することを急いだ。

■コールセンターを利用した安否確認
地震発生当時、社長を含め、幹部クラスのほとんどが、外部で会議中だったため、本社にSSMTのメンバーは数人しかいなかった。それでも、発生から2 時間後には、メンバー全員が本社に戻り、SSMT を設置した。「日頃の訓練により、緊急時には本社に戻って情報を収集することが浸透していたため、自然に足が本社に向かっていました」と、SSMT メンバーで同社人事部の加藤治樹ディレクターは振り返る。

同社では、社員の安全確保をリスクマネジメントの柱としている。全社員1800 人を対象にした抜き打ち訓練を含め、年に3回は安全確認

写真を拡大SSMT メンバーの緊急連絡網(右)とメンバー全員が社内と自宅に携帯する業務用無線機(左)

の訓練を実施する徹底ぶりだ。

しかし今回の震災では、本部を設置した後、社員の安否確認には予想以上に時間を要した。携帯電話メールによる安否確認システムが、ほとんど作動しなかったためだ。震災当日の安否確認は、夜の12時まで続けたが、被災地域に住む半分の社員の安否がわからなかったという。そこで翌日からは、追加策として都内にある同社のコールセンターから、連絡のつかない社員に対して電話をし続ける方法を同時に試みた。最終的には地震発生から3日目の午後に全社員の安全を確認した。

東北地方では津波により自宅が被災した社員や福島第一原発の周辺地域に住む社員がいて、彼らの安全をどのように確保するかが問題となった。日本政府が定めた避難要請エリアは30 キロだったが、アメリカ政府からは原発から80 キロ以上離れるよう公式文書で発表されていたため、同社は社員の安全を考慮して、80 キロ圏内の地域に住む社員および震災の影響で自宅が被災した社員に対しては、急きょ、一時的な避難場所を探し、住宅を提供した。また、当初は、停電や公共交通のマヒに加えて放射能の危険性も否定できなかったため、東日本地域に住む社員全員に対して、安全の確保を目的に、3月13 日から10 日間、自宅待機の指示を出した。

■指揮系統を大阪に移転
14 日の朝には、SSMT を東京から大阪オフィスに移した。BCP の中では、メールシステムのバックアップセンターを大阪に置くなど、本社が緊急事態に陥った際には大阪が本社機能として働くように決めていた。「今回の震災では、本社に甚大な被害はありませんでしたが、交通機関の混乱や余震に加え、福島第一原発の影響も懸念されていました。指揮系統が冷静に判断できる環境を整える必要があるとSSMT の会議で判断しました」と加藤氏はSSMT を移転した理由を話す。翌日の15 日には、中部、関西および西日本地区で通常業務を再開した。

目標復旧時間は1 日過ぎてしまったが、スムーズに対応できたという。「東京に残っていたら、公共交通機関の影響に加え、ガソリンも手に入らなかったし、計画停電の問題にも直面していたでしょう。大阪では、事業復旧に集中することができました。時間が経つにつれ移転したことが正しかったと実感しています」(加藤氏)。

■たばこの輸入が過去最高
事業復旧が順調に進む一方、課題も見られた。日本たばこ産業株式会社の複数の生産拠点が被災し、国内のたばこ市場の需要を満たす供給が難しくなったことを受け、一時的に輸入たばこの需要が高まった。フィリップモリスジャパンのたばこ製品は、通常ヨーロッパで生産され約2 カ月を要して船便で配送されるが、需要の急激な高まりに対応するため、今回の震災では成人喫煙者へのたばこ製品の安定供給の観点から、一時的に空輸で対応した。「想像以上の需要であったが、できうる限り社として最大限の対応を行った」(同社 コーポレート・アフェアーズ 井上哲ディレクター)。同社では、今後は海外本部との連携を含めサプライチェーンのBCP についても考えていきたいとしている。