■優先業務の選定と目標復旧時間の設定 
大規模災害等の緊急事態においても優先的に継続しなければならない業務を「優先業務」とすると、貨物自動車運送事業における優先業務は通常、表1にまとめられるような業務が含まれよう。

この優先業務の選定には、事業者ごとの特徴が反映される。例えば、主に1社からの発注に基づいて事業展開している事業者であれば、荷主との折衝は1社で足りるが、混載便を運行している事業者であれば、多数の荷主の状況を素早く把握し、限られた運行車両をどの荷主に差し向けるか選択しなければならない。また、梱包業務や倉庫業務も併営している事業者であれば、自社のスタッフや倉庫設備の状況を確認し、速やかに復旧することも優先業務に含まれることになる。 

自動車貨物運送業B社では、自社のホームページに「安全とBCP」という項目を掲げ、「在庫データ」、「倉庫の温度管理」、「従業員への給与支払い」を「止めてはいけないモをノ」としたことを公表しており、参考となる。 

この絞り込んだ優先業務ごとに目標復旧期間を設定する。ここで注意するべきなのは、荷主からの要望=目標復旧期間とすることの是非である。荷主からの要望のみに基づいて目標を設定すると、BCPが実行不可能なものになりかねない。一般に目標復旧期間を短く設定すればするほど、事前の準備や復旧に要するコストがかかる。実現に向けた投資を許容するかどうかは重要な経営判断であり、慎重な検討が求められる。 

この優先業務の選定と目標復旧時間の設定は複数人で取り組むとよい。実際に作業を進めてみると、人によって相当考え方が異なることが分かるだろう。経営者が示した方針の下、複数人がこの作業に取り組み、その結果に基づいて、経営者が最終判断する。これらの取り組みを丁寧に行うことが、BCPを単なる地震対策マニュアルとは似て非なるものにするポイントである。

■復旧手順の検討

事業者へのヒアリングや資料に基づき、貨物自動車運送事業の輸送業務が継続困難となる要因の分析を試みたのが、図1のモデルである。

斜字で示した要因は、どれが生じても事業の継続が困難になるため、貨物自動車運送事業者自身による対策が必要である。東日本大震災では、燃料確保の困難が注目されたが、それ以外にも様々な要因が事業を継続困難にする。 

具体的なBCP策定に当たっては、優先業務ごとに、これらの要因がどのような影響を与えるかを分析し、目標復旧時間内に業務を再開するための方策を検討し、文書に取りまとめることになる。方策の具体例としては、表2の通りである。