1.着衣着火の特徴

日本の場合、バースデーケーキのろうそくを吹き消す時の着衣着火や毛髪着火は少ないと思うが、東京消防庁では、主に台所の調理用コンロによる着衣着火に対する注意喚起を行っている。

「着衣着火」事故の特徴は下記の通り。

(1)毎年1月が一番多い
理由は温かい料理を作る機会が増えること。厚着をしているため炎の熱さを皮膚で感じるスピードが遅くなること。また衣服に易燃性の素材を着ることが多いこと、などが挙げられる。例えばアクリル100%、木綿50%+ポリエステル50%など、炎から3cmほど近づくことで数秒以内に着火してしまう。

(2)女性の被害が多い
コンロによる着衣着火を性別で見ると、女性は男性の2倍以上の人数で発生している。年齢では60代が最も多く、40代から80代の間で多く発生している。理由は、女性の方が食事をつくる確率が圧倒的に高いことが言える。

(3)18~19時台が最も多い
この時間帯は夕食の準備時間にあたる。同様に朝の7~8時台、昼12時台にも発生しているため、特に注意が必要である。

(4)高齢者の調理時に要注意
このほか、統計的には目立って表れていないが、今後は高齢者の事故にも注意したい。高齢者は青色系の色がわかりにくくなる傾向があり、白内障になるとさらにこの傾向が強まる。高齢者が調理時にコンロなどで火を取り扱う際には、十分注意が必要である。

■高齢者の身体的特性 (運転に関連する身体的特性のヒアリング結果)
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/reverse_run/pdf03/07.pdf
(出典:国土交通省)

■着衣着火防止のポイント
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/topics/bouka/data/1_H30_tyakuityakka.pdf
(出典:東京消防庁)


 40秒でわかる!こんろでの着衣着火に注意!(出典:Youtube)

下記に様々な着衣着火の映像がある。
https://www.youtube.com/results?search_query=着衣着火

台所のコンロ以外でも、下記のような着衣着火はよくあるパターンだ。

◆飲食店や旅館において、卓上コンロで鍋を料理中、客の服や浴衣に着火
◆ストーブを消さずに燃料タンクに灯油を補給している際、誤って服に灯油をこぼし着火
◆和服を着て仏壇のろうそくに火をともし、供物や花を新しくしようと奥に手を伸ばした際、着物のたもと等に着火
◆キャンプでバーベキューをしているときに炭を足そうとして衣服に着火


着衣着火の原因は、一般的には生地の表面の毛羽に火が着き、瞬間的に火が走る現象の「表面フラッシュ現象」が起こるためである。表面に綿・レーヨンなどの毛羽のあるものに発生しやすい。また、洗濯することによっていっそう毛羽立ちが発生し、表面フラッシュを起こしやすくなることがある。

■服が燃えて大やけど! 知られざる危険「着衣着火」
http://www.kokusen.go.jp/news/data/a_W_NEWS_031.html
(出典:独立行政法人 国民生活安全センター)

2.着衣着火後の消火方法

では、もし誤って着衣着火が起こり、自分の着ている衣服に火が燃え移ったらどうすればよいか?もちろん直接手で消すことはできない。幾つか手法を紹介する。

・着衣着火の消火方法
(1)身近なテーブル・床・壁などに着火した部分をこすりつけて、もみ消す。
(2)燃えている服を脱いで、シンクに投げ込み、水を掛けて消す。
(3)水道が近くにあれば、着火した部分に水を掛けて消す。
など
これらの方法は、着火後の処置が早いほど、皮膚のやけどを最小限に抑えることができる。すでに炎で皮膚がやけどを負っていても、全身やけどになる前に、迷わず処置して火を消し止めてほしい。

アメリカではStop・Drop・Rollという着衣着火時の消火法を子供達に教えている。下記の映像の2:00くらいからを参照してほしい。

Fire Safety For Children - The Friendly Fireman (出典:Youtube)

また以下のリンクもあわせて参考にしてほしい。
■ストップ、ドロップ アンド ロールに関する検証
  http://www.tfd.metro.tokyo.jp/hp-gijyutuka/shyohou2/50/50-13.pdf
(出典:東京消防庁)

■着衣着火の対処法(ストップ、ドロップ&ロール)
https://www.city.nemuro.hokkaido.jp/lifeinfo/kakuka/syoubou/shoubouhonbu/keibou/5538.html
(出典:北海道根室市消防本部)

ストップ、ドロップ &ロールとは、下記の意味がある。
・ストップ(止まって)
自分が着ている衣服に火が燃え移ってしまった時には、絶対に慌てて走りまわってはいけない。ひとつの理由は、火が付いたまま走ることにより火が大きくなってやけどの範囲も広くなること。もう一つの理由は、他の可燃物にも延焼してしまい、大火災になる可能性も高くなること。パニックにならないように落ち着いて、まず、火を消すことに集中しよう。

・ドロップ(倒れて)
台所であれば床、外であれば地面に倒れこみ、燃えている部分を床や地面に、できるだけ、密着して押し付けるよう。燃えている部分を平面に押しつけることにより、酸素の供給が絶たれ、窒息消火ができる。また平面が冷たければ、冷却消火にもなる。

・ロール(転がって)
両手で顔を覆うようにして顔へのやけどを防ぎながら、地面や床に倒れこんで、燃えている部分を左右に転がることで衣服についた火を窒息消火させる。理由は、燃えている部分を平面にこすりつけることにより、燃えるのに必要な「連鎖反応」を断ち切ることができるため。

※「連鎖反応」:可燃物と酸素がエネルギーの山を越えて結びついた(燃えた)ときに発生した熱が、まだ燃えていない可燃物と酸素に伝わり、次々と連続して、可燃物と酸素がエネルギーの山を越えて結びつく現象。

「ものはなぜ燃えるのか」
http://nrifd.fdma.go.jp/public_info/faq/combustion/index.html
(出典:消防庁消防大学校)

3.着衣着火の予防法

着衣着火を未然に防ぐ方法についても考えていきたい。つまるところ、原因となる要素をていねいに取り除いていくことにつきる。

(1)調理する際は、衣服の素材に注意する
特にボア生地など、毛羽立った綿・植物性繊維、パイル地、レーヨンなどの服は、コンロの直火から3cm離れた距離でも簡単に着火するため、調理中は燃えにくい防炎製品のエプロン、アームカバーを付けて調理する。

(2)袖が広がった服、着慣れない服で調理しない
袖口がフリルになっていたり、袖や脇が広がった服で調理しない。滅多に着用しない浴衣なども、熱燗などを鍋越しに酌み交わす際など、垂れた袖に気づかずにうっかりと火に近づけてしまい、着衣着火する場合もある。

(3)コンロの奥に調味料や調理器具などを置くのをやめる
そもそも着火の原因となる動作をさせない動線整理でも事故を予防できる。

(4)着火が起こりやすいパターンを知る
台所コンロ以外でも、仏壇のろうそくを灯したまま、お供え物や掃除、お線香をあげる時。花火をする時。バーベキューをする時。これらは着衣着火が起きやすい典型的なパターンだ。あらかじめその知識を持ち、火を衣服(たもと等)に近づけないように注意する。

(5)燃えにくい防炎製品の衣服を着る
とくに高齢者や子どもには、着衣する素材を工夫することでも、着火事故を防ぐことができる。以下のリンクも参考にしてほしい。

■防炎物品いろいろ
http://www.jfra.or.jp/member/pdf/buppin_pamphlet_etc.pdf
(出典:公益財団法人 日本防炎協会)

4.着衣着火消火後のやけどの対処(例)

では自分や身の回りの人が着衣着火に遭ったら、どんな応急処置をすればよいのか。実際には着火した部位によって処置が異なるが、一つの例として参考にしてほしい。

(1)コンロの火がついたままであれば火を消し、二次的な事故を予防する。
(2)着衣着火した部位が腕だけであれば、水道で15分以上、衣服の上からやけどした部位を冷やし、皮膚科を受診する。
(3)やけどが重度である(例えば以下のような)場合、直ちに救急車を呼ぶ。
 ・着衣着火した部位が頭や脇腹など、上半身に達した場合
 ・気道やけど(鼻毛が焦げる、たんが黒くなる等)の場合
 ・深達度IIのやけど(湿潤・薄赤)が体表面積の30%以上か、深達度IIIのやけど(湿潤・やや白色)が体表面積の10%以上の場合(※手のひらが約1%)
 
詳しくは下記のサイトを参照してほしい。
応急処置マニュアル 火傷
 http://www.fdn119.jp/manual/02.html
(出典:宮城県名取市消防本部)

■ やけどの応急手当はどうしたらよいですか?
 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa8/q02.html
(出典:公益財団法人 日本皮膚科学会)

5.まとめ

着衣着火は日常的にどの程度起こっているのだろうか?実際は119通報されない限り、消防庁の統計データには挙がってこない。実際の発生件数は不明だが、初期消火に成功して大事には至らなかった事例はかなり多いと思う。

記事には詳しく書かなかったが、海外では、地下鉄の満員車両内で、犯人が怨恨を持つ相手の衣服にライターで火を付けて、出発前に車両を降り、次の駅まで周囲の乗客の衣服へ次々に延焼した例もある。

あまり物騒なことばかりを考えたくはないが、いざという時に何をするべきか、を具体的に知っておくことで、さまざまな被害が軽減される。まずは日常的な危険リスクを予防し、自分をはじめ、大切な家族、仲間や友人を守って欲しいと思う。

本年も日本各地のたくさんの方々にワールドファイアーファイターズの記事を読んでいただき、心から感謝申し上げたい。講演先では、記事の感想や質問、ポジティブなコメント、さまざまな取り組みや課題、励ましの言葉をいただいた。これからも次の時代に向けて、さらに具体的でわかりやすい記事を書き続けたいと思う。

来年も皆様にとって健康で安全な年になりますように!

(了)


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