被害確認というと、地震災害発生時の応急危険度判定士による判定がまず頭に浮かぶと思われるが、この応急危険度判定は、あくまで二次被害を防ぐための情報提供が趣旨であり、立ち入り禁止などの判定がなされたとしても、これには法的拘束力はないし、その後の利用の可否を判定するものでもない。緊急時に建物の安全性を確保する責任は、その建物の所有者、管理者などにあり、その建物が何らかの理由で被害を受けた場合、自らの責任で安全性を確保するための措置を取らなければならないというのが大原則である。

特に地震や浸水などの自然災害であれば、建屋の構造の健全性が保たれているか否かを確認する必要がある。最終的には建築士などの専門的な知見により判定してもらう必要があるが、その前段階として二次調査が必要かどうかの見極めは自社の従業員で行えるようにしておかなければ効率が悪くなる。

また借主の所在確認は、その後の事案処理上不可欠であり、連絡がつかない場合は、貼り紙、緊急連絡先への連絡など各種手段を講じる必要がある。

受託物件が滅失したかどうかは大きな問題に
最高裁の判例によれば、何らかの事象により賃貸借契約の目的物が滅失し、その効用を失った場合、賃貸借契約の趣旨はもはや達成できなくなるため、当該契約は当然終了するとされている。損壊の程度が著しく、建物としての効用を失っていると判断される場合は滅失となる。

問題は滅失に至らない程度の被害が生じている場合である。滅失には至らないとしても、建物の損壊程度が大きく、大修繕が必要になる場合、建物の損傷程度、修繕費用、建物の耐用年数や老朽度、家賃の額などの事情によっては、オーナーが賃貸借契約の解除を求める正当事由となることがあるとされている。この場合、敷金返還をどうするかなど様々な問題も同時に生じる。

また、オーナー、借主どちらの責任にも帰さないような被害が生じ、修繕の必要がある場合、民法によれば、オーナーは自らの負担により建物の修繕を行う義務を負うことになるが(民法601条、606条)、オーナーから理解を得られない事例も散見されるようだ。法律の知識がある借主は、一部設備が使用できないことを理由として、賃料減額請求などを行ってくることもある。賃貸不動産管理業の立場からすれば、

基本的にはオーナーの代理人として最善を尽くす必要があるが、借地借家法や消費者契約法の趣旨からして、一方的な不利益を借主に押し付けることは許されず、対応に神経を使う問題になる実態があると聞いている。このような問題への対応は、経営層が前面に出て対応する必要がある。

賃貸不動産管理業の事業継続計画を検討するに当たっては、広域被害を生じるような何らかの緊急時が生じてから一定の期間が経過し、借主の生活が落ちついたタイミングで、借主とともに室内の地震被害の有無を確認し、写真などの物証を確保しておくことを復旧手順として定めておくとよい。これにより、後日の退去時の無用な争い(「この間の地震で起きた傷だから責任はない」とする借主の主張が疑わしい等の場合)を避けることができる。

早期復旧に向けた取り組み
早期復旧に向けて取り組みが開始できる状態になれば、表4に示したような対応を進め、早急に復旧を図る。広域被害をもたらす緊急時には、賃貸不動産市場も引き合いが増える傾向があるため、可能な限り早期の復旧を実現することが重要である。

なお、2011年3月の東日本大震災の際、多くの自治体が仮設住宅を建築する代わりに賃貸不動産を借り上げる対応を行い、賃貸不動産管理業界にも国や自治体から協力の要請があった。このような対応は社会からのニーズが高い半面、一部の自治体では、賃料支払が事務上の支障から数か月滞るなどの事態が生じた。オーナーの立場からすれば、大きな不利益であるため、賃貸不動産管理業としては注意が必要なことを記憶しておきたい。

(了)