ステップ3:感染予防の方針と手順を定める 
感染症は、病原体、感染経路、感染する状態の人という3つの要素がった時に感染が拡大する。病院に病原体をなるべく持ち込ませないことは、感染予防の基本的な柱であり、特にワクチンにより感染する状態の人そのものを減らす対策が実施できない状況では重要性が高い。だが、発症者へのケアを行う医療機関では、持ち込ませないための対応の代わりに、発症者の動線、診察を行う場所などを工夫し、時間的・空間的に発症者を他の感染する状態の人と分離することになる。このように、果たすべき役割ごとに必要な感染予防の方針が異なる。 

たとえば、大量に発症者を受け入れることを予定している医療機関では、発症者向けの動線とその他の患者向けの動線を完全に切り分けるなどの対応を行い、いかにして大量の患者をさばくかという観点からの検討が必要である。 

市中の通常の医療機関では、国内での流行中にせき・発熱などの症状を呈する患者を一切受けいれないという対応をするわけにもいかない以上、発熱者向けの外来とそれ以外の外来で診察時間を分けるなどの対応も検討することになるだろう。医療機関によっては、発症者の受け入れを行わないことを期待されることもある(産婦人科など)。このような医療機関では、発症の疑いがある人の来院を拒絶する方法を検討しなければならない。 

この方針を定めると、確保しなければならない感染予防備品などが決まってくる。
 

ステップ4:継続する業務の絞り込みと必要な資源の確保
政府は、事業者・職場向けガイドライン上、流行の最盛期には、欠勤率が最大4割に達する状況が2週間程度継続するという想定を示している。冒頭に示した文献の中には、この想定通り、各部署で職員が4割欠勤した場合の対応を検討させることを勧めているものもある。 

だが、欠勤率最大4割という数字は全部署をおしなべての平均であるから、部署によってはこれを上回る欠勤率を示す可能性がある。特に国内流行の初期においては、濃厚接触者については出勤の自粛を求められることを考えると、1つの部署が全員一定期間登院できないシナリオもありうる。 

ここは、部署ごとに欠勤率4割に備えた対策だけを考えるのではなく、やはりビジネスインパクト分析の手法を用いて、個々の業務やシステムが停止した場合に、事業に与える影響度合いを確認したうえで、許容される業務停止時間が非常に短い業務については、必要な経営資源を特定し、その経営資源が失われた場合の代替を手配しておくことが重要だと考える。 

代表的な例としては、管理者(院長、総師長、事務局長など)が欠勤した場合の意思決定権がある。これまでのコンサルティングの経験上、最終的に残された課題となるのは、「結局誰が決めるのか」ということである。小規模な無床診療所であれば、管理者が出勤できない状態であれ、事業を休止するという対応もありうるが、有床診療所や病院であれば、入院患者がいる以上、事業の休止というわけにはいかない。ここは管理者自らが時間をかけて、自分が業務遂行不能の場合、意思決定を誰に委ねるかを考えることが重要である。 

また、出納権限、電子カルテ等のシステム管理者権限など事故防止のため普段はごく少数の人間だけが担当しており、かつ長期間の停止が許容されない業務を、権限を持つ職員が欠勤した場合の代替手段について検討しなければならない。 

欠勤率4割という前提からスタートする形で各部署が対策を考えると、どうしても「できるものから手を付けて、後に回せるものは回す」といったものになる。そうではなく、業務ベースで、「その業務は本当に止められませんか? この業務をできるのは誰ですか? 何が必要ですか? それは本当に必要ですか? できる人を増やすことはできませんか?」といった問いかけを通じて、緊急時に停止が許容されない業務と必要な経営資源を特定するプロセスを踏むと、より対策を具体的でかつ有効性の高いものにすることができる。