ステップ5:対策の文書化
策定した基本方針、感染予防対策、事業継続対策を発生後の時系列に沿って整理する作業を行う。日本政府の時系列は、未発生期、海外発生期、国内発生早期、国内感染期、小康期の5つであり、医療機関の事業継続計画もこの5つの時期に分けて整理しておくとわかりやすいだろう。 

この際重要なポイントは、どのタイミングで対策を開始するかである。新型インフルエンザ等を想定する事業継続計画の策定に当たっては、従来はWHOのフェーズ(6段階)や日本政府の発表する情勢判断(4段階)に基づいて行動すると決めることが多かった。しかし、2009年の新型インフルエンザ等対策で問題になったように、外部の機関が発表する情報に連動する形で自社の対策を決めておくと、その機関の情報発表が遅滞した場合に、対応に支障が生じる。できれば、国内発生早期や国内流行期における各種の対策実施のタイミングは、日本政府の判断を踏まえつつ、自ら判断するための基準を設けることが望ましい。

流行中の学校・保育園・幼稚園等の閉鎖による影響に注意
国の行動計画やガイドラインによれば、新型インフルエンザ等が流行した場合、学校や保育園・幼稚園といった幼児・児童が集団生活を送る施設は、感染拡大の温床となるため、早めに運営を休止するという方向性が示されている。このことは、労務集約型の事業構造を持つ医療機関にも大きな影響を与える。特に働き盛りの看護師の多くは、学校、学童、保育園、幼稚園といった施設が休止した場合、勤務を継続できなくなる可能性がある。病院が代替施設を設置するという対応も考えられるが、その代替施設が感染拡大のきっかけとなった場合に社会的に激しい批判を浴びる懸念がある。行政においてもこの問題は認識されているため、今後の動向に注目が必要である。

流行中の最盛期には資金繰りが重要な課題に
病院の医療収益(医療機関における「売上高」を指す)のうち、患者から窓口で受け取る収入はほんの一部に過ぎず、残りは国民健康保険や社会保険の支払審査期間に請求し、2カ月後に入金を受ける仕組みになっている。

新型インフルエンザの流行を医療経営の観点で考えると、診査を求める患者が多数来院するため、医業収益を積み上げることになる。売掛金の回収に2カ月かかることを考えると、この段階で大きな資金需要が発生する。病院管理者であれば、このような事情により、普段とは異なる資金繰りが必要なことを念頭に置いておくことが重要である。

参考文献:
『いまからできる!一般医療機関のための新型インフルエンザまん延期の診療継続計画作り』(平成20年度厚生科学研究、主任研究者:北大学教授押谷仁先生)
『新型インフルエンザ等発生時の診療継続計画作りの手引き』(平成24年度厚生科学研究、分担研究者:労働科学研究所吉川徹先生)
『平成25年度政府行動計画・ガイドラインを踏まえた医療機関における新型インフルエンザ等対策立案のための手引き』(平成25年厚生労働科学研究、分担研究者:三重大学田辺正樹先生)