■全国のデータ収集・事例公表で災害関連死を防ぐ

災害関連死を防ぐためには、災害弔慰金の支給・不支給に関わらず、亡くなってしまった方が災害前にどのような生活をし、災害によってどのように変わってしまったのかを詳細に分析すべきです。どうすればその命を救うことができたのかという視点で、どのような対策が採られていればその死を防ぐことができたのかを具体的な事例で明らかにしなくてはなりません。ただし、これらはセンシティブな個人情報であり、市町村単位での公表分析では、個人が特定されてしまう可能性もあります。

そこで、国が事例を全国の市町村から集め、医学のみならず、法学的視点、福祉的視点など多様な分野の専門家による調査機関を組織し、死亡原因、死亡に至る経過、今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析し、結果を匿名化して公表すべきです。なお、現在の各市町村の個人情報保護条例の解釈でも、国に遺族の同意なくして情報提供できる手法はありますが、全事例を漏れなく収集するには、特別立法によって国が事例収集できるようにすべきと考えます。これにより、例えば、温かい食事の供給、段ボールベッド設置、清潔なトイレ環境等の必要性等が浮かび上がることでしょう。分析結果は、災害救助法の定める救助基準のボトムアップにもつながります。事前の準備のための予算措置が十分になされることが重要です。

■災害関連死ゼロフォーラムで国民的議論を

阪神・淡路大震災の兵庫県の死亡者総数6402人のうち919人、新潟県中越地震では死亡者総数68人のうち52人、東日本大震災では死者1万9630人のうち3676人、熊本地震では死者267人のうち212人が災害関連死です。助けられたはずの命をどうしたら救えるのか、技術的や医学の向上も不可欠ですが、避難所環境向上や仮設住宅環境向上のためには、災害救助法をはじめとする法制度による担保もまた不可欠であることを今後多くの皆様に知っていただきたいと考えています。

■参考文献・関連記事

岡本正「災害復興法学II」(慶應義塾大学出版会 2018年)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/9384

リスク対策ドットコム「災害関連死458人 南相馬市長が現状訴え 日弁連シンポジウム」(2014年9月3日)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/971

日弁連「震災関連死の審査に関する意見書」(2013年9月18日)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2013/130918.html

日弁連「災害弔慰金支給申請に対する結果通知の運用に関する意見書」(2017年3月16日)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2017/170316_3.html

日弁連「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」(2018年8月23日)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2018/180823_3.html

(了)