はじめに 
本稿の締め切り間際となっていた2月28日、時事通信社が行った自治体における事業継続計画(以下、BCPという)の策定状況に関する調査報道に接した。この報道によれば、都道府県、政令市、県庁所在市の98自治体中、BCPの策定が完了した自治体は49自治体にのぼる。一方、未策定の49自治体のうち策定中なのは32自治体で、残りの17自治体は「予定なし」「か検討中(時期未定)」と回答したとも報じられている。この記事では、優先業務の選定に関する庁内の調整などが策定の障害とされている。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2014年3月25日号(Vol.42)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年6月30日)

国が全上場企業に対してBCPの策定を求めている状況において、一部自治体がBCP策定の必要性を感じていないとしたら、東日本大震災の教訓が生かされていないと考えられる。そこで、当初の予定を変更し、自治体におけるBCPを取り上げる。今回は、自治体におけるBCPの必要性について具体的な事例に基づいて検討することとし、策定の手法については次回に解説する。

 東日本大震災前の状況 
わが国の地方自治体では、災害対策基本法に基づく対応の基本計画として「地域防災計画」が準備されており、災害への初動、応急、復興に向けた各種対応については、この中に定められている。このため、東日本大震災以前、自治体関係者の中には、BCPの策定は屋上屋を架すものではないかという見方が根強くあった。 

一方、2009年11月に内閣府(防災担当)、総務省消防庁が実施した全国の都道府県と市町村を対象とした地震発生時の業務体制に関する調査では、47都道府県庁のうち37団体(78.7%)、1795市区町村のうち1696団体(94.5%)が地震発生時の業務体制が整備されていないと回答しており、地域防災計画を実行する仕組みがないという実情があった。このような事態に至った要因について、自治体職員へのヒアリング調査の結果に基づく一例を表1に示す。

東日本大震災における自治体の被害と対応例 
このような準備状況の下、2011年3月に東日本大震災が発生し、各地に甚大な被害を生じた。特に自治体では、庁舎自体が損壊し、機能停止に陥った事例が少なくなかった。 

一例として、岩手県上閉伊郡大槌町(かみへいぐんおおつちちょう)の事例を取り上げる。 

大槌町は、東日本大震災により、市街地の約6割が津波の浸水被害を受け、全人口15277人の11.2%にあたる1709人が死亡・行方不明となる大きな被害を記録した。中でも町役場は、特別職を除く職員136名中32名(23.5%)が死亡・行方不明という甚大な被害を受けた。 

同町の地域防災計画では、地震が発生した場合、町役場に津波が迫る危険があるため、海抜約25メートルの高台にある大槌中央公民館に対策本部を設置することが定められていた。ところが、町長も副町長も防災を所管する総務課長もこの計画を把握していなかった。

そのため、地震動が収まった際、町長は大槌町災害対策本部を役場前の駐車場に設置する決定を行った。テントや机を設置し、第一回対策本部会議を開催しようとするところで、津波が町役場を襲った。その結果、町長、課長級職員7名全員が行方不明となり、その後全員の死亡が確認された。一般職員も129名中25名が死亡・行方不明となった。行政経験の豊富な管理職が一度に失われたことはその後の役場運営に深刻な影響をもたらし、行政が最も機能を発揮する必要がある発災直後に、町役場の行政能力は著しく損なわれることとなった。