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東日本大震災で明らかになった自治体BCPの必要性 

図1を見てほしい。災害等の発生に伴い新たに発生する災害への初動、応急、復興に向けた各種業務(図1のグレー部分)については、確かに地域防災計画において定められている。しかし、平常時に行っている通常業務(図1の青い部分)については、地域防災計画では触れられていない。通常業務の中には、前記した「死亡届の受付」のように、災害応急対応上継続が必要な業務もあれば、被災後の極端な資源不足の状況では当分休止としてよい業務もある。 

民間企業であれば、緊急時に必要な業務の絞り込みについては、利益貢献度、社会貢献度あるいは法令順守上の必要性等の観点から絞り込むことが可能である。しかし、自治体はすべての業務を法令等に基づいて行っている。また、自治体のすべての業務は住民の一定のニーズを満たすために行われているものであるから、業務の絞り込みが難しい。

さらに、発災直後の自治体は全職員を災害対応に当たらせることが地域防災計画上定められているにもかかわらず、職員は災害時でも平時の業務分掌にこだわり、他の部署の業務を応援に行くというマインドに乏しく、結果として対応に支障を来した事例が報告されている。 

自治体がBCPの策定に取組む意味はここにある。事業継続とは「組織の経営資源の破壊、混乱、中断などを引き起こすインシデント(事態、事象)が発生した後で、自組織が許容できるサービスの提供レベルをあらかじめ検討・決定し、そのレベルで組織が製品やサービスを提供し続けられること」をいう。災害等により極端な資源不足の状況に置かれた組織において、どのような業務を継続するかは、その組織が事前に決めておかなければならない。 

自治体では、すべての業務が法令上の要請と住民のニーズに基づくものである以上、業務の絞り込みは容易ではない。災害等により業務継続に支障を来す事態に備え、業務の優先順位については、平時の段階で自治体の中で一定の合意を形成する必要がある。更に、災害救助法等に基づく災害応急対応には、膨大な作業量が必要となり、発災直後は全職員が従事することが必要になる。これを実現するためには、優先的に継続する業務を特定した上で、災害想定等に基づいて作業量を特定し、それにあわせた部署間の動員計画を整備しておくことが必要である 

これらの計画策定に代表されるソフト面での準備に加え、設備や備品などのハードを準備し、ソフトとハード双方の活用を充分に教育し、組織の中に必要なスキルを蓄積する必要がある。このソフト、ハード、スキルのバランスがあらゆる組織における危機対応、業務継続対応の要点である。大槌町の事例は、ソフト、ハード、スキルという3つの面での準備のバランスが崩れていることにより生じうる痛切な一例である。このような事例を教訓として、自治体は次の災害に備える責務を有する。地域防災計画とBCPは、自治体の災害対策にとって車の両輪ともいうべき存在になることを確信している。 

次回は、国の国土強靭化計画、防災基本計画、都道府県の地域防災計画の改定が一巡した現状を踏まえ、市町村におけるBCP策定の具体的な手法を紹介する。

(了)