怖いヒートショック

この断熱エコハウスの住まい手は、暮らしかた冒険家の 伊藤菜衣子(いとう さいこ)さんです。

伊藤さんがなぜこのような家を作られたかについては、こちらの「これからのリノベーション」の「はじめに」に詳しく書かれています。

新建新聞社「これからのリノベーション」(https://www.s-housing.jp/archives/136979

「はじめに」より引用

2011年、築100年ほどの廃墟のような町屋に東京から移住を決めました。家づくりは、まったくの素人なのに、セルフリノベーションで住まいをつくろうと思ったのは、東日本大震災を経て、自分の暮らしを構成するものを見直したいという衝動でした。ひたすらGoogle検索とSNS、そしてご近所の方々の協力があって、半年くらいで、なんとか住めるようになりました。しかし、「夏を旨とすべし」の精神で夏のためにつくられた家は、冬になるととてつもなく寒かったのです。外よりも家が寒いという想定外の展開でした。  
そんな時、竹内昌義さんがFacebookに「山形エコハウス」という高性能なエコハウスが震災時に電気が供給されなくても快適に稼働していたことを書かれていて、冬の寒い日に見学させてもらう機会を得ました。熊本の家では、ほんの小さなスペースさえも温まりきらない薪と同量で、全館一日中ポカポカになっている家を見て、家づくりの技術は進化しているのだなぁ、と感動しました。自分の手を汚して家づくりと向き合った結果、わたしにとっての最良の家は、快適とエコが共存する「高性能なエコハウス」という予想外の答えが出たのです。  
ただ、フリーランスで不安定な収入の私には、何千万円もする新築マイホームは、夢の夢のように感じました。リノベーションならば、自分の手が届く範囲で、快適でエコな家を手に入れることができるのではないかと考えました。熊本の家は賃貸だったので、いろいろな制約があり断念しましたが、本誌にてP68に掲載する私の家「暮らしかた冒険家 札幌の家」は、最前線で活躍するたくさんのプロフェッショナルたちの叡智によって断熱リノベーションを実現した事例です。

ここで、伊藤さんはたくさんのプロフェッショナルの叡智について紹介されていますが、伊藤さんの叡智もすごいのです。このお家の外観は、黒色の渋みのある色合い。実は焼杉がない北海道で黒い木の外壁にしたいと思い、プロは思いつかないし、やったこともないという墨汁を天然の防腐剤と混ぜて黒にして、自分たちで塗られたそうです。さすが、暮らし方の冒険家、お見事です。お話をうかがっても、断熱について研究され尽くされていて、Q値とか、UA値とか、C値とか、断熱性能を測る値がすらすら出てくるのです。

Q値とUA値は熱の逃げる量。C値は家の気密性です。数値が少ないほど熱が逃げにくく暖かい住宅になります。理想的なQ値は1.6といわれていますが、国の基準は2.7。30年の電気代の差額は138万円にもなると言われています。(電気代28円 / kWhの場合)

写真を拡大 伊藤菜衣子さんのお家の断熱性能「これからのリノベーション」より引用

で、伊藤さんもおっしゃっているように日本の家は寒いのです。「夏をむねとすべし」といったのは、あの吉田兼好の徒然草です。

徒然草55段「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり」。

寒さはなんとかなるけど、暑さは大変なので、夏を基準に家づくりを考えましょうということだそうですが、でも、寒さ、なんとかなってないですよね。

現在、冬の高齢者の溺死の多さが問題になっています。これは、高齢者が冬に泳ぎに行っているわけではありません。風呂場と脱衣所の温度差によるヒートショックによる心筋梗塞や脳梗塞で、死者は交通事故死の4倍と言われています。ヒートショックというと、風呂の熱さだけが原因のように想像されている人もいるようなのですが、そもそもの原因は家の寒さですよね。

だから、寒さは全くなんとかなっていない訳です。消費者庁は毎年、ヒートショックに対し注意換気していますが、溺死者数は減っていません。

ここにあるように脱衣所に暖房を導入するのも対処法ではありますが、家自体を暖かくしたほうがもっと効果が高いですよね。