第1回 インターネット新時代の労務リスク
毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
2014/05/25
インターネット新時代の労務リスクマネジメント
毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
編集部注:「リスク対策.com」本誌2014年5月25日号(Vol.43)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年5月13日)
1.IT技術の進化に伴い発生する新たな労務問題
インターネットの歴史は、1960年代に始まります。1990年代に商用化が始まり、パソコンの普及も相まって、インターネットの利用者数は爆発的に拡大しました。日本においては、1995年にMicrosoft社からWindows95が発売されたことや、この年に発生した阪神・淡路大震災でインターネットが有効利用され、メディアがインターネットを取り上げるようになったことなどが普及の要因となりました。そして、WEB2.0時代にソーシャルメディアという新たなメディアが登場し、インターネットの利用は大きく変化しました。
いまやインターネットは、コミュニケーションツールとして、あるいは情報収集・管理ツールとして、なくてはならないものになっています。しかし、インターネットがビジネスツールとして利用され始めた当初、電子メール利用規程の策定や情報セキュリティ規程の見直しなど、インターネットの業務利用に伴う新たな労務リスク対策に頭を悩ませた企業・組織は少なくなかったものと思われます。
IT技術は常に進化し続け、ビジネス環境も常に変化しています。最近では、クラウドコンピューティングの導入、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスの業務利用、LINE、Twitter、Facebookに代表されるソーシャルメディアを営業・販売活動に活用するソーシャルマーケティングや人材の募集・採用に活用するソーシャルリクルーティングなど、最新のIT技術やインターネットサービスを積極的に活用する企業・組織が増えています。そして、当然のことながら、新たなビジネス環境では、新たな労務リスクが発生します。筆者は、IT系企業および流通・サービス業を主たる事業とする企業に対してリーガルサービスを提供する法律事務所に所属していますが、ここ数年、従前には見られなかった労務問題に関する相談案件が増えています。
そこで、本シリーズでは全6回にわたり、IT技術やインターネットサービスの進化が目覚ましい近時のビジネス環境において企業・組織に求められる新たな労務リスクマネジメントについて説明します。
2.「労務リスク」とは
インターネット新時代の労務リスクマネジメントについて説明するにあたり、まず、「労務リスク」の意義について明確にすることが必要と思われます。ただ、「労務リスク」について明確に定義した文献などが見当たらないことから、ここでは、「労務管理において発生する労務コンプライアンスリスク、ヒューマンリソースリスク、およびそれらのリスクが顕在化することにより発生する派生リスクを併せたもの」と定義します。
まず、「労務コンプライアンスリスク」とは、違法な長時間労働や賃金の未払い、サービス残業の強要、解雇権・懲戒権の濫用など、企業・組織による労務管理上の法令・行政指導に違反する行為、または就業規則や個別の労働契約に違反する行為などのコンプライアンス違反によるリスクを指します。
次に、「ヒューマンリソースリスク」とは、従業員の離職、労働災害、健康不全やメンタルヘルス不全、職場におけるセクハラ・パワハラ、犯罪行為や就業規則等に違反する非違行為など、必ずしも企業・組織のコントロールが直接的には及ばない従業員の行為態様によるリスクを指します。
そして、派生リスクとは、労務コンプライアンスリスクやヒューマンリソースリスクが顕在化することにより派生的に生じるビジネスリスク、行政処分リスク、訴訟リスク、費用発生リスク、風評リスク(レピュテーションリスク)などを指します(図表1)。
インターネット新時代の労務リスクマネジメントの他の記事
おすすめ記事
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方