■大気圧の変化を捉えて森林火災を予測

ところで今回の話は、AIを使ってこの山火事の発生を予測しようという試みについてです。冒頭ではアメリカのケースを述べましたが、山林火災の管理や対策に毎年大きな予算を必要としているのはカナダでも同じことのようです。「カナディアン・サイエンス・パブリッシング」というウェブサイトには、山火事を誘発するかもしれない顕著な気象条件をいち早く察知し、事前に地域住民に呼びかけたり、災害活動に向けたさまざまな準備を確保できるようにするためのAIについて紹介記事がありました。これを少し覗いてみましょう。
http://www.nrcresearchpress.com/doi/story/10.4141/news.2017.08.01.476#.W87U1ulRfVK

記事はCanadian Journal of Forest Researchという雑誌に掲載された内容をもとにしたもので、コンピュータモデルを使って、カナダのアルバータ州北部における顕著な気象条件の発生予測ができるように学習させる仕組みであるとあります。オクラホマ大学とアルバータ大学の森林科学者チームによって開発されたこのモデルは、SOM(Self-Organizing Map:自己組織化マップ)と呼ばれています。すでに気象条件に影響を与えることが分っている大気圧の変化に着目し、アルバータ州北部のどこで、いつ森林火災が発生する可能性があるのかを、このモデルはマップで示してくれます。

アルバータ大学教授でこの研究の共同執筆者の一人、Mike Flannigan博士によるもう少し具体的な説明があります。「5~8月までの山火事シーズンに、アルバータ州全域からリアルタイムの気象データが集まると、SOMモデルへのインプットが可能となります。この後SOMモデルは新たにインプットされたデータを学習し、アップデートして予測地図を生成するのです。SOMを使えば、日々の森林火災管理や早い段階の警報システムとして役立てることができるようになるでしょう」。

■人間の脳にヒントを得たAIモデル

ところでこの記事のタイトルは「人工知能で山林火災を起こす顕著な気象を予測-人間の脳からひらめきを得たコンピュータモデルで、消防当局は山林火災の気象条件により早く対処できるようになるかもしれない」となっています。この中の「人間の脳からひらめきを得た…」とは何を意味するのでしょうか。もちろんその説明についても触れられています。

SOMは脳内にあるニューロンに例えられます。なるほど、この記事の原文では途中からSOMに「s」がついて「SOMs」と表記されていますから、まさにニューロン細胞のように多くの同種の要素が複雑に連携して機能するらしいのです。SOMは一種の機械学習システムで、以前はモンスーンのような気象を予測するのに使われていましたが、リアルタイムで山林火災の気象予測に役立てるのはこれが初めてのこと。SOMは従来のような直線的に変化する山火事の特徴(火災の強度や拡大率など)ではなく、一時的で広範囲にわたる気象データを扱うことができます。山林火災につながるかもしれない潜在的な気象について警告を発することのできる、より正確で強固な方式であると述べています。

以上は森林火災予報をAIで実現するカナダの事例でしたが、日本はこの手の予報はまったく必要ないのでしょうか。対岸の火事とばかり静観してもいられないように思います。気候変動が予測不能なリスクを秘めている以上、安心はできません。日本の国土の75%は山岳地帯。標高数十~100m足らずの里山がぐるりと新興住宅地を取り囲んでいるような場所も無数にあります。今後もし日本の乾燥化が進めば、フェーン現象と相まって米国のようなタイプの山火事だって発生しかねない。米国などは道路の幅も一軒一軒の敷地面積も広く、ゆったりとした作りになっていますが、山のどんづまりまで住宅がひしめき合っている日本で大規模な山火事が起きたら、米国以上に被害が拡大する恐れがあるかもしれません。

(了)