管理組合そのものの脆弱性 
これまで、マンションの脆弱性について紹介してきたが、もう一つ問題になるのは、分譲マンションの管理を行う管理組合の脆弱性である。 

分譲マンションの管理権は、デベロッパーからの引き渡しの時点をもって、マンションの管理組合に移る。分譲マンションの管理上検討しなければならない項目は多数あり、これらに対応するためには、高い水準の専門知識が求められる。しかし、その主体である管理組合の構成員である区分所有者は、必要な専門的知識を有さない一般市民であることがほとんどである。加えて、近年、区分所有者の高齢化等に伴い、管理組合の意思決定機関である理事のなり手がおらず、実質的に管理組合が機能していない事例も多いとされる。さらに、管理費の滞納や修繕積立金の積み立て不足など管理組合の財政基盤が揺らいでいる管理組合が一定数存在する。 

災害等の緊急事態は、これらマンション管理組合自体が抱える脆弱性を誰の目にも明らかなものにする。平常時は、マンション管理会社等に業務委託を行っていれば、最低限の清掃や点検といった対応は行ってもらうことができるため、管理組合の機能不全が問題になることは少ない。しかし、災害等の緊急時には、マンション管理会社自体も被災しており、素早い対応を行えるとは限らない。マンション管理会社が機能していたとしても、マンション管理組合が自ら意思決定しなければならない場面は数多い。 

特に管理組合にとって重い負担となるのは、復旧に向けた区分所有者どうしの合意形成である。区分所有法や東日本大震災をきっかけに改正された改正被災マンション法は、区分所有建物が重大な損害を受けた場合に、再建・取り壊し・売却のいずれの選択肢についても区分所有者の5分の4の賛成により決議することを認めた。一方、この合意形成に時間がかかり、被災から6カ月以内に何らかの決議ができない場合、区分所有者は他の区分所有者に対し、建物及びその敷地に関する権利を時価で買い取るよう請求することが認められており(区分所有法61条12項)、この権利行使により、一方的に共有関係から離脱することができる。 

そもそも大きな被害を受けたマンションの管理組合が建物および敷地に関する権利を時価で買い取るのは、非常に負担が重い。区分所有者が、この請求を行う意思を固める前に一定の合意形成を図っていくことがマンション管理組合の大きな課題となる。 

ところが、マンションの区分所有者と一口に言っても、様々な立場の住人がいる。店舗部分の所有者と住宅部分の所有者ではそもそも復旧に向けた方針が異なることがある。住宅部分の所有者でも、実際に居住しているか、賃貸しているかによっても方針が異なることは多い。所有物件を賃貸している区分所有者は、高額な負担を伴う修繕等を忌避する傾向がみられる。 

さらに、実際に居住している住宅部分の所有者でも、数棟で構成されるマンションで、1棟が滅失に近い大被害、他の棟は補修対応が可能な被害といった状況においては、全体を1棟とみるか、それとも棟ごとに方針を決めるかで意見が鋭く対立した事例が少なくない。