■国内最大のエチレンプラント
残された課題となったのが石油化学プラントの復旧だ。鹿島事業所は、エチレンの年間の生産能力が82万トンと国内最大の生産拠点として知られ、国内シェアは10%に及ぶ。プラントは2系列あり、そこで生産される製品は、合成洗剤や農薬といった日用品、食品容器、自動車部品、注射器などの医療器具など、生活に身近な商品の原料となる。特に震災後は、一時的に治療用の輸血バックや注射器など医療器具の需要が急激に高まっていた。「これらは、使用に際しての安全に配慮し、あらかじめ認定された原料樹脂しか使用できないという規制があり、代替品ですぐに置き換えられないため、ライフライン確保の観点から絶対に供給を切らせないという使命感があった」(植田氏)。

三菱化学は、在庫での対応により最低限の供給を維持するとともに、4月8日の時点で、5月20日までに第2エチレンプラントを立ち上げる目標を発表した。目標に合わせ、鹿島事業所では、設備点検や修理項目を洗い出し、優先順位を付け、限られたリソースで最大の効果を発揮できるように、従業員と協力会社が結束して復旧作業に取り組んだ。結果、目標通り、5月20日に第2プラントでの生産を再開し、その後も順調に復旧作業を継続し、6月末には第1エチレンプラントも再稼働した。

■徹底したリスク管理
2カ月半という期間での復旧は、コンビナート全体の被害状況からすれば早かったという。仮に火災や爆発など2次災害を起こしていたら、同社のみならず、コンビナート全体が長期にわたり復旧できなかった可能性もある。 

被災後の一連の速やかな対応は、これまで同社が積み重ねてきたリスクマネジメントへの取り組みが背景にある。防災訓練は、工場全体として年3回実施。そのうちの1回は、消防署の協力を得て共同で消火活動など大規模な火災訓練を行っている。さらに、各プラントでは、毎月、プラントオペレーターが実際にプラントを停止させ、点検を行うといった訓練もしている。

「現場では、事業所長を中心とした、指示命令系統がしっかり整備されている。今回の震災でも、各リーダーの指示に従って従業員がやるべきことを把握して業務に冷静に対応していたことが、目標復旧の実現につながった」と植田氏は話す。 

以前に策定したインフルエンザ対策用のBCPも生きたという。新型インフルエンザBCPでは、感染が拡大しないよう班交代制(スプリットチーム制)で勤務する方法などが用いられるが、震災直後、同社の現場では従業員への過度な負担を避けるよう交替で点検作業にあたらせ、それに並行して、本社では、人事担当者がBCP策定の際に各事業所に備蓄した水や非常食などを1カ所に集め、そこから鹿島事業所に配送した。 

三菱化学では、大規模災害で起こる不具合、行政やインフラ企業とのコミュニケーションなど今回の経験で得た情報を踏まえ、近い将来に発生が懸念される首都直下地震や東海・東南海地震を想定したBCPを策定中だという。

(了)