調達先被災でも事業継続
在庫対応と、海外企業への委託で対応

富山県黒部市に本社を持つホースメーカーの株式会社トヨックスは、原材料の最大の仕入先が被災する中、新型インフルエンザを機に拡充してきた在庫対応と、万が一の被災時に備え代替生産の依頼をしていた海外メーカーの協力を得ることで、顧客への影響を回避した。

■最大の仕入れ先が被災
トヨックスは、工場機器や家庭の台所、浴室の水回りなど幅広い分野で使われているホースやその継手、ホース加工のコア技術を応用した輻射空調システムなどの製造を手がける。吸引圧力がかかってもつぶれにくいホースや、耐熱性に優れたもの、液体や匂いが付着しにくいものなど、製品によっては市場の7割、8割のシェアを占める特殊製品もある。 

東日本大震災では、富山県黒部市は震度1を記録しただけで、同社に地震による直接的な被害はなかったが、茨城県にある原材料の最大の仕入れ先企業の工場が被災し、調達が4カ月にわたり見込めない状態になった。 

トヨックスの顧客の中には、同社製品への依存度が100%という企業もある。こうした企業への影響を出さないためには迅速な対応が求められた。幸い、同社では、2009年の新型インフルエンザの流行を機に、国内倉庫で製品の在庫を多めに確保するなどの対策を行っていたため、供給体制に即座に影響が出ることは避けられたが、同社ISO事務局管理責任者の出嶋光之氏は、「お客様への説明責任として、在庫でいつまで耐えられるのか、いま、どのような対策を講じているのか、いつから安定供給ができる体制に戻るのかなどを説明する必要がありました」と語る。 

国内の代替となり得る調達先は、それぞれが抱えるメインの顧客への対応に追われていたため、同社が新たに購入を申し出ても、十分な量を仕入れることは困難な状況だったという。原材料を1社から集中的に購買していたことが裏目に出た。 

それでもトヨックスでは、イタリアの大手ホースメーカーであるフィット社と技術提携をしていたため、同社に依頼し主力製品の原材料、計500トンを現地で調合してもらい、それをペレット状にして日本に送り届けてもらうことで自社工場での安定生産が継続できる体制を整えた。偶然にも、数年前にトヨックスの宮村正司社長がフィット社を視察に訪問した際、万が一の被災時における応援を要望していたのだ。ホースは、製品ごとに主原料、副原料、配合材、顔料など何十種類もの素材を微妙な割合でブレンドしなくてはならないが、フィット社からは日頃からトヨックスの製品についてよく理解が得られていたことから、スムーズな対応がしてもらえたという。宮村社長は「たまたま食事をしながらお願いしたことが、まさか現実になるとは思いませんでした」と振り返る。 

ただ、船で日本まで運ぶとなると、1カ月半の月日がかかるため、5000万円を投じて、空輸により10日間という早さで調達することを決断した。「お客様の信頼には代えられません。5000万円もあれば、かなりの危機管理対策ができますが、日頃のリスクマネジメントが甘かったと言わざるを得ません」(宮村社長)。

■防災への取り組み
同社は、30年ほど前から防災には全社体制で取り組んできた。きっかけは1975年に本社工場で発生した火災。企業の存続が危ぶまれるほどの事態に陥ったが、取引先らの協力により立ち直った。この時から、社是として顧客第一主義を掲げているという。 

年1回行っている防災・消火訓練は、近隣の消防署の協力を得て、夜間に実施することもあるという徹底ぶりだ。地震対策では各設備機器の転倒対策はもちろん、水害対策として、近くに流れる河川の氾濫などを想定し、土のうを積み上げる訓練も行っている。さらに、万が一、被災をすることも考え、重要設備の予備機を遠隔地に保管。受電変圧施設は床上げし、停電対策として大型の発電機も数台確保している。このほか、中国やタイ、アジアに販売店や代理店を持つことから、早くから強毒型鳥インフルエンザにも備え、倉庫での在庫量を2カ月分にするなどの対策も講じてきた。これまで積み重ねてきた災害や事故への備えが今回の震災では奏効したと言える。

ちなみに、タイの販売店では、現在、在庫を1.5メートルほどすべて棚上げし、洪水に備えている。同社製品を扱う販売店にも、日頃からリスク管理を呼び掛けているのだという。 

これほどまで防災や危機管理に取り組んできたにも関わらず、今回の震災では、サプライチェーンの被災という、これまで想定していなかった新たなリスクが顕在化した。

「今回は、正直、たまたま何とかなったという面もあります。これからは、日常的にお客様に対して2次サプライヤー3次サプライヤーまで含めて、事業継続体制がしっかりしているということを言える体制にしていくことが不可欠です」。(宮村社長)

■サプライチェーン継続


震災後、同社では、BCP策定支援において多くの実績を持つニュートンコンサルティング株式会社(東京都千代田区)に依頼し、サプライチェーン全体のBCP構築に着手した。大きな柱は、主力製品群の今まで以上に確実な供給体制の確立だ。 具体的には、まず同社の製品群を、近年の売上の推移や収益性、今後の売上予測をもとにABC分析し、売上の8割を占める主力製品群14種を抽出。その原材料や素材、部品メーカーら計150社に対し、BCPの評価付けと、それぞれのサプライヤーに対する2社購買体制の推進までを行っている。BCPが見込めない企業については代替調達先の確保も併せて行い、備蓄などの対策も講じていく。 

評価付けは、BCP取り組みに関するアンケート(右)と実際の製造体制のチェック(下図表)の2通りで実施している。アンケートでは、BCPの策定の有無のほか、策定していると回答した会社には、策定年度や方針、対象範囲、訓練の頻度、具体的な訓練日程と訓練で発見した課題、自社の事業を脅かすリスクの評価、その他、施設の耐震について細かく質問。製造工程のチェックは、エクセルシート上で、それぞれの原材料、部品の仕入先(トヨックスからすると2次サプライヤー)の所在地や発注から納品までのリードタイム、複数購買の有無や備蓄量などを細かく記入してもらっている。確認できない部分は、戸別訪問によるヒアリングも行う。 

コンサルティングを担当しているニュートンコンサルティングの内海良氏は「まずはあらゆる生産工程を見える化して、可能な限りリスクを把握することが大切」と話している。 一方、売上に占める割合が少なくても、特殊製品で製造が止まると顧客への影響が大きなものについては、できるだけ原材料などを、他の主力製品の原材料と統一させるなど、アイテム数を少なくしていくことで、サプライヤーのリスク管理の負担を低減させていくことを検討している。それにより、競合会社が参入しやすくなることも考えられるが、宮村社長は「本気でリスク対策をするという姿勢があれば、ライバルは怖くありません。お客様が価格だけで選ぶか、安心できる会社を選ぶか、どちらを選ぶかを考えれば、当然の選択です」と言い切る。 

このほか同社では、過去の歴史的災害や工場の地質、地形をすべて分析し直し、再度、災害対策においても優先付けをしながら対策をしていくことにしている。 現在は、工場近くの河川が氾濫した際に備え、自社工場が完全に使えなくなることも想定し、外注委託先の工場を増やしたり、倉庫や配送拠点の全国的な拡大を併せて進めている。宮村社長は「経営効率的に考えれば逆行ですが、これからの時代は、お客様の信頼を得るために必要なこと」と話している。