災害時に赤ちゃんにとって最も大事な栄養源について、今週も考えます(出典:写真AC)

液体ミルクの国内での生産が決定して販売を待ち遠しく思っている防災関係の方も多いのではないでしょうか?お湯を沸かす必要がなく常温で保存できる液体ミルクは、災害時、ミルクで育てられている赤ちゃんに役立つことは間違いないですよね。導入に取り組まれたママたち、少子化だというのに、製造に踏み切った企業の方々、そして、赤ちゃんのためを考えた議員の方々、また防災関係の皆様に心より感謝申し上げます。

そのうえで、これからは先週から話題にしているこの国際基準をどう考えるかが重要になってきます。今週は条文も多くて退屈するかもしれませんが、一緒に考えていただければうれしいです。

先週はこちらです。
■災害時のミルク一律配布は国際基準違反?
http://www.risktaisaku.com/articles/-/14892

先週お伝えしたことをまとめておきます。

災害時の乳幼児栄養救援活動の国際基準は、通称OG-IFEと呼ばれ、WHO(世界保健機関)、UNICEF(国連児童基金)、WFP(国連食糧計画)、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などの国連機関や複数の人道援助団体からなるネットワークが発行したもので最新版は2017年版が出されていること。
ここでは、過去の災害におけるデータやエビデンスから災害時に母乳を与えられなかった赤ちゃんが有意に下痢や死亡率が高くなっていることから、災害時は母乳支援が何よりも重要とされていること。
そして、母乳にしか存在しない抗ウィルス成分、抗寄生虫物質、抗ガン物質、抗アレルギー成分、抗体によって赤ちゃんが感染症や下痢から守られ、たったティースプーン1杯でも菌を殺す成分が300万入っていることから、わずかな量でも母乳を与えられるよう支援が必要であること。
液体ミルクについては2010年の追補で記載され、「災害が起こって間もない時期水で希釈する必要のない液体ミルクが便利」とあり、液体ミルクは、母乳育児支援を第一次的にしながら第二次的な方策として、母乳が与えられない赤ちゃんに対しての支援であること。また、もし与えるとしたら、支援が必要なくなるまで継続して十分に与えられなければならないことも記載されている。

今回は、OG-IFEの内容に踏み込んでいきたいと思います。

その前に(と、いつもしつこいんですけど)、こんなふうに母乳育児支援が最重要とあると書いてあるものについては、日本ではものすごく警戒する世代の方も多いのです。母乳をあげることが母として当然であって、母乳で育てないと、こどもがちゃんと育たないかのような「母乳神話」が過去におしつけられてきたことがあったからです。現在の子育ては、そこまでひどい押しつけは少なくなっているものの、まだまだ根深い問題も残っています。ですので、母乳育児支援というと、押しつけられるものではないかと警戒される場合も多いようです。この国際基準はそのような母乳育児支援とは違います。なぜなら、例えば、スプーン1杯の母乳が赤ちゃんの感染症や下痢の予防に重要であることを親に対して情報提供し、支援が必要な母親に相談先を紹介して説明責任を果たしますが、それを聞いた上で母親が母乳を飲ませる事を拒否した場合、その母親の意志は尊重されます。災害時、赤ちゃんを守る母乳ではありますが、母であるなら当然、母乳をだすべきみたいな押し付けではなく、説明したうえでの本人の意志は認められ尊重されます。

また、2017年版の現在翻訳中のOG-IFE最新版では、「母乳育児と乳児栄養についてトレーニングを受けた、保健や栄養に関する資格のあるワーカーが、個別のアセスメントを行なって乳児用調整乳の必要性を決定すること。養育者に対して個別に、安全な調乳法を教え、一対一で見せ、実践的なトレーニングをすること。」「母乳代用品を配布する場合は、十分な母乳育児カウンセリングと支援が母乳で育てられている母親に提供されるようにすること。母乳で育てている母親には価値のある特別なもの、例えば食べ物や衛生用品などを配布することを考慮する」と具体的かつきめ細やかに親に寄り添う体制になっています。