編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年1月25日号(Vol.47)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年6月9日)

スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い、ソーシャルメディアの利用はここ数年で急速に拡大しています。2014年4月に総務省が公表した「平成25年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、ソーシャルメディアの利用率は、全体で57.1%となっており、国民の2人に1人はソーシャルメディアを利用していることがわかります。このような社会状況を背景にして、最近では、LINE、Twitter、Facebookなどのソーシャルメディアをマーケティング活動や人材採用活動のツールとして利用する企業や組織が増えています。 

しかし、その一方で、ソーシャルメディアを使って発信した情報に批判的なコメントが殺到する、「炎上」も多発しています。企業や組織、あるいはその従業員が炎上を発生させた場合、企業不祥事として扱われ、新聞やテレビなどのマスメディアで取り沙汰されることも少なくありません。 

そこで、今回は企業・組織のソーシャルメディアリスクとその対策について説明します。

1 ソーシャルメディアリスクとは

企業や組織のソーシャルメディアリスクは、次の3つに分けられます。
1)公式アカウント運用のリスク
2)従業員による私的利用のリスク
3)ネット上のクチコミ情報によるリスク

1)と2)は、社内ユーザのソーシャルメディア利用に伴うリスク、3)は社外ユーザの利用によるリスクです。

1)の公式アカウント運用のリスクとは、企業等がソーシャルメディア上で公式に開設したアカウントを使って情報発信することに伴うリスクを指します。企業等の役員による個人アカウントの利用についても、公式アカウントと同様のリスクを伴うことがあります。公式アカウントを使って営業活動や人材採用活動等を行う場合、関係法令や各種ソーシャルメディアの利用規約、利用の際の基本的マナーなどを守ることが求められますが、公式アカウントの担当者がこれらを理解しないまま情報発信した場合、ルール違反・マナー違反を問われることになります。また、公式アカウントからの発信情報に誤りや嘘があったり、顧客や従業員などのステークホルダーをないがしろにする不適切発言がなされた場合は、企業等に対する信用や評判を毀損してしまうおそれがあります(図表1)。

2)の従業員による私的利用は、公式アカウントほどには企業等がコントロールすることができない分、リスクが大きいといえます。2013年の夏には、コンビニエンスストアや飲食店などにおいて、社員やアルバイト従業員がアイスクリームケースに寝転んだり、店舗のバックヤードで悪ふざけする写真をソーシャルメディアに投稿して炎上する事例が相次ぎました。そして、それによってクレームや問い合わせが店舗を運営する企業等に殺到し、中には従業員が起こした炎上が引き金となり、倒産する企業まで発生する事態となりました。

3)のネット上のクチコミ情報は、企業等がコントロールすることができないものですが、企業等が事業活動を行う限り、常に存在するリスクといえます。特に、BtoCのビジネスを行う企業等では、大きなインパクトを受けることが想定されます。企業等に関するネガティブ情報が発生・拡散するパターンは、いくつかあります。1つは、企業等でトラブルが発生した際に、ちゃんねるや電子掲示板などに2書き込まれた内容や企業等に対する批判が他のソーシャルメディアやクチコミサイトへと広がることで炎上が起こるケースです。このほか、勘違いや勝手な思い込み、虚偽情報のねつ造、企業等を攻撃する誹謗中傷などによってネガティブ情報が拡散することもあります。 

以上のように、公式アカウントを運用していない場合でも、従業員の私的利用やネット上のクチコミ情報によるソーシャルメディアリスクは、すべての企業・組織に存在します。そして、ソーシャルメディアリスクが顕在化した場合に企業等が受けるマイナスの影響は、決して小さくはありません。

2 ソーシャルメディアポリシー・ガイドライン策定の必要性

企業・組織のソーシャルメディアリスク対策として、公式アカウントの運用や自社関係者のソーシャルメディア利用に関する方針を示す「ソーシャルメディアポリシー」や、利用上のルールを定めた「ソーシャルメディアガイドライン」の策定が必要とされます。ソーシャルメディアの利用に成功している企業等の多くは、これらを策定しています。 

策定の際は、広報部門、営業部門、管理部門などの関係部門間において協議・検討する必要があります。また、ソーシャルメディアガイドラインは、公式アカウント担当者向けと一般従業員向けに分けて策定し、図表2に記載される事項等を定めます。