住宅機器メーカー大手のクリナップでは、福島県いわき市にある主力工場群が、東日本大震災の影響により、水道などのライフラインの停止や燃料不足、調達先のサプライヤーの被害を受け、操業を停止した。同社では、即座に受注を中断、さらに震災前に成立していた契約をすべてキャンセルすることで、消費者への影響を最小限にとどめた。震災直後から災害対応にあたった同社総務部長の島崎憲夫氏に事業が復旧するまでの取り組みを聞いた。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2011年9月25日号(Vol.27)掲載の記事を、Web記事として再掲したものです(2017年3月10日)。役職などは当時のままです。

 

■生産拠点が同時に被災

いわき市一帯では、同社グループ会社の全9工場中8工場が集中している。その中には、主力商品のシステムキッチンを生産する鹿島システム工場(いわき市)も含まれる。今回の震災では、それらの大半の工場が被災した。各工場では、敷地内の地面の隆起や建屋の一部損壊などが見られたほか、海岸沿いに位置する久之浜工場では、津波による被害もあった。

製造ラインが壊滅するほどの被害は避けられたが、電気や水道などライフラインが停止し、製品の製造に必要な部品の調達先であるサプライヤーの数社が被災したことから、クリナップでは、震災直後から生産業務を1カ月間、停止することとなった。

■主要サプライヤーの被災

「震災後、事業を復旧するにあたり、最初に問題となったのは水不足です」同社のBCP策定に携わった総務部長の島崎氏は振り返る。ステンレス製品などをプレス加工する際、摩擦などにより発生する熱を冷やすために、大量の水を必要とするのだという。

震災直後から、いわき市周辺地域では断水により、十分な工業用水が確保できなかった。救援物資を全国各地から集めたが、飲料水を確保するのが精一杯だったという。さらに、ガソリン不足により現地で働く社員の通勤の足が途絶えたことも、事業復旧の妨げに追い打ちをかけた。サプライヤーの被災も多く見られた。

厨房機器メーカーの富士工業株式会社(神奈川県)では、福島県西白河郡の白河工場が被災した。同社は、国内レンジフードで約90パーセントのシェアを持つ。震災から1週間後には関東にある工場で代替生産することで事業復旧を果たしたが、クリナップを含む、ほとんどのキッチンメーカーが一時的に供給を受けられない状態となった。同様に、排水トラップで90%以上のシェアを持つ丸一株式会社(大阪府)もいわき工場が被災したことで、多くのキッチンメーカーの事業継続に障害をきたした。

■震災から3日目に全営業を中断

震災から3日目の3月14日、クリナップは当面の営業活動をすべて中止し、受注を止めることを業界に先立ち全国に発表した。

「全く地震の影響を受けていない地域でも、多くのお客様が家を建てています。当社の商品の納期の遅れにより、住宅の完成ができないなどの問題が発生することは許されません」(島崎氏)。

震災前に契約していた受注に関しても、復旧の見込みがつくまで一時的にすべてキャンセルすることを決定。顧客の理解をとりつけた。

結局、生産が再開されるまで受注はゼロ。1カ月分の売上は無くなってしまったが、機械の点検やサプライヤーの被災状況の確認など復旧に向けた活動に集中することができたと島崎氏は話す。

震災後、水道は3月28日に復旧。それに合わせて急ピッチで復旧作業に取り組み、震災からちょうど1カ月後の4月11日から一部の商品の受注を段階的に再開した。優先的に生産を再開したのは、システムキッチンの生産ライン。同社製品で最も需要が高く、工場建物施設の被害が比較的少なかったことに加え、外部から代替用品を手配できたことから早期再開を決めた。

その後、サプライヤーの部品供給の再開などに併せて浴槽や厨房用品など徐々に製品を増やし、8月22日にすべての商品の提供を再開した。

■生産拠点の分散化

「プレス加工から組み立てまで工場を1カ所に集中させることは、効率性において、さまざまなメリットがありました。しかし、あまり集中しすぎたことが、今回のようなリスクを生みだしてしまいました」(島崎氏)。

クリナップでは、今後の震災対策として、岡山県の岡山工場を活用することで生産拠点リスクの分散を行うことを検討するとしたほか、これまでいわき市に設置していた自社の情報システムをデータセンターに移管することで、より強固な事業継続体制を構築するとしている。

(了)