キューバ、ハバナの街並み

4月11日、パナマでアメリカのオバマ大統領と、キューバのラウル・カストロ国家評議会議長の両首脳が会談しました。国交断絶状態だった両国ですが、この首脳会談によって国交回復への動きが進むと期待されています。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年5月25日号(Vol.49)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです(2016年9月13日)。本稿は著者がロンドン大学に在籍していた当時に執筆したものです。

キューバと聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。蒼い海に、スペイン様式を色濃く残す美しい町並み、そこを走る50年代のビンテージカー、Buena Vista Social Clubを代表する音楽。そんなキューバですが、実は医療では1人当たりの医師数は日本の約2倍、先進的な医療や高い技術を誇り、教育では、識字率は99.8%を達成。防災では、国連や赤十字のモデル国になるなど、世界で最も先進的な国の1つです。

大学院の授業でもその取り組み例が頻繁に取り上げられました。今回は、研究のためにキューバで市民や行政担当者に対して行ったインタビューを交えながら、キューバのレジリエンス(災害からのしなやかな回復力)について、ご紹介したいと思います。

最大級のハリケーンが襲っても死者ゼロ

ハリケーンは、世界で最も多くの命を奪う災害の1つです。キューバは、アメリカへのハリケーンの通り道となっており、1995~2006年には熱帯暴風雨3回、ハリケーン8回(うち4回がアメリカに甚大な被害をもたらしたカトリーナと同規模、あるいはそれ以上)に見舞われました。しかし、驚くことにその死傷者は計34人と最小限に抑えられているのです。

キューバは、1人当たりのGDPが6833ドル(外務省調べ)と裕福な国ではなく、資源は乏しく、建物の老朽化は顕著、防波堤といった防災設備も皆無に近いのですが、その状況下でも早期警報システムや避難体制に力を入れ、被害に合うたびに改善を繰り返し、減災・防災に取り組んでいる国、それがキューバなのです。

「市民防衛」を中心としたキューバの防災体制
 ”CivilDefense”(市民防衛)は米国の軍事侵略に備えるためのものでしたが、災害においては、その危険から市民を保護し、被害からの回復を援助することを目的としています。

このような市民防衛制度が州ごと、自治体ごとに設けられ、中央政府のもと、この市民防衛が緊急時のみならず平時から地域ごとの実情に合わせた活動をしています。

その活動内容として、リスクマネジメントおよび、GISを活用したハザードマップがあります。ハザードマップでは、一軒一軒の家の構造まで把握したうえで、その危険性を細かく評価します。インタビューでもその様子を伺うことができました。

「市民防衛の委員が、家に調査に来て、耐震性をチェックし、脆弱な箇所は対策・補強をします。避難所として使えるか、スペースはどれだけあるのか、何人受け入れられるのかを確認し、ハザードマップに更新していきます。…(中略)以前、庭のマンゴーの木が危険であると判断されると伐採機がすぐに手配され、後日切り倒しました」。

また、マップ作りでは、子どもの数や妊娠中の女性、避難にあたって助けが必要となる人が把握され、その手伝いを誰がするのかといった細かい情報までも盛り込まれます。結果、各個人レベルまで災害の危険性の共通認識ができ、かつきめ細やかな防災計画が策定されるのです。計画は誰かが作るのではなく、地域のことをよく知る市民が自ら作るのです。

全市民参加型の国の避難訓練“Meteoro”
キューバでは、“Meteoro”(メテオロ)という全市民参加型の全国避難訓練があります。毎年ハリケーンシーズン前の6月に行われますが、「市民防衛」に留まらず、あらゆる組織、市民が計画や準備を検証します。

メテオロは土日の計2日間行われ、1日目は具体的なシナリオに基づき、各省庁、企業、病院、学校では訓練で対応策や手順を確認し、2日目は設備や物資のチェック、適切な配置方法、家畜の避難場所の特定などの具体策が検討されます。

さらに11月前後に各省庁、企業、病院、学校、すべての組織が防災計画を見直し、翌年のメテオロで検証・周知を行います。気候変動や化学物質の汚染や疫病の流行などを想定したメテオロも行われます。

あるホテルの災害対応管理責任者は「訓練では、ホテルの顧客を守り、近隣住民の受け入れを行います。プランやマニュアルは各従業員には配布されていませんが、一人ひとりの担当者が自らの役割をよく理解しており、それに沿って行動します」と話していました。

また、「土日に仕事がある市民に対しては、その訓練に参加するために2日分の給料が国から支払われます」という、訓練を重要視する徹底した国の施策があります。