(※画像はイメージです。スウェーデン王立工科大学図書館)

今回は前回に引き続き大学の事業継続を取り上げる。大学は、研究、教育、社会貢献の3つの柱に必要なリソースの多くを自らの管理下に置いており、緊急時にはそれらのリソースを大学の事業継続や早期回復に投入することが一見可能にも思える。だが、前回示したように、大学が担う公的な役割と社会からの期待を考慮すると、自らの事業継続や早期復旧ばかりに力を入れることはできない。今回は、大学の公共性や社会からの期待に応えつつ、早期の復旧を図るために考えておくべきポイントを紹介する。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年7月25日号(Vol.49)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年9月2日)

大学の事業継続における教員と学生 
大学の事業継続を考えるにあたり、大学を構成する教員と学生に対して、どのように働きかけ、何を求めるかは重要なポイントとなる。

①教員の役割 
擁する学部によっても異なるが、研究テーマが災害時の対応に関連する教員の存在は、大学の事業継続にも有利に働くことがある。前回紹介した国公立C大学工学部の建築学系教員の有資格者が建屋の応急危険度判定に取り組んだ事例は、その一例である。 

事業継続の検討に先立ち、大学内に関連する分野を研究する教員がいるか確認し、関連分野の研究者がいれば、最初から協力してもらう方が望ましい。ただ、高度に研究領域が細分化された今日、無理に一定のテーマに取り組ませようとしても難しいことは念頭に置いておく必要がある。 

それ以外の教員に対しても、緊急時の避難誘導救出、安否確認、帰宅困難者対応といった初動対応については、訓練などを通じて身につけていただく必要がある。

②学生の役割 
大学における学生は、教育を受ける受益者としての側面と、大学の教育や運営に積極的に関与する構成員としての側面を併せ持つ存在である。ただ、緊急時における学生の果たす役割には、その年齢や能力に応じておのずから限界がある。緊急時の大学運営は、教職員が中心に行うのが原則だと考える。 

一方、応急対応から復旧までの長い過程において、ボランティアの果たす役割が年々大きくなっている中で、人的資源供給源としての大学生の役割に注目が集まっている。一例として、2011年に日本財団が宮城県石巻市に設置した活動拠点では、1日当たり平均で580人のボランティアが活動していたとの記録がある(第14回防災ボランティア活動検討会資料、内閣府(防災)普及啓発・連携担当)。 

学生がこのような多様な社会における活動を体験することは、学生本人にとっても貴重な体験となる。被害拡大を阻止することが目的となる初動対応に一定メドがつけば、大学としては、ボランティア活動に参加しやすい環境を整えていくことが求められる。学生個々の事情にもよるが、可能な範囲でボランティア活動に従事することは本人の知見や人格を深める教育効果を期待できるだろう。 

2011年4月1日の文部科学副大臣通知「東北地方太平洋沖地震に伴う学生のボランティア活動について」は、ボランティア活動に参加しやすい環境づくりの具体例として、補講・追試の実施、レポートの活用による学修評価などを挙げており、参考になる。なお、この通知では、単に参加を推奨するだけではなく、ボランティア活動の危険性に応じた安全管理の徹底やボランティア保険などへの加入など、学生への適切な指導も求めている。