2016/07/12
直言居士-ちょくげんこじ
横田瀝青興業株式会社は、20年以上に渡り「パトロール給油」と呼ばれる、山間の工事現場などに燃料を配送する業務を手がける。代表取締役社長の横田勝好氏は、「24時間365日でパトロール給油を対応しているのは当社だけ。大晦日の深夜に、とある会社から『燃料が切れそうだ』との連絡を受け、駆けつけたこともある」と胸を張る。
横田氏は、阪神・淡路大震災で被災。当時は携帯電話の仕事に従事していたため、まだ珍しかった携帯電話を複数台持っていたが、「当時は若かったので、携帯電話を被災者の役に立てることができなかった。その時の後悔がずっと残っていた」と話す。
東日本大震災では、重要ライフライン会社からの要請で震災後間もない13日に被災地入りした。パートナーであるミキコーポレーションとともに、大型タンクローリー8台を駆り、約1000キロの道を走破。社長自らもハンドルを握ったという。あまり知られていないが、3.11では東日本の全ての製油所がストップし、燃料の多くは関西方面からもたらされている。当面の処置と考えていたが、最終的には被災地の悲惨な状況に、仮設事務所を現地に構え、近隣の石油スタンドが業務を再開する5月いっぱいまで、ひたすら燃料を運んだ。
横田氏は「被災地では、ガソリンを求めて長蛇の列ができた。給油を待つ間、エンジンをかけることもできずに寒さで命を落とすケースもあった。パトロール給油のプロとして、なんとしても被災地に燃料を届けたかった」と当時を振り返る。
この時の教訓から生まれたのが、燃料給油の新しい形である「どこでもスタンド」だ。給油ポンプをタンクローリーに直結することで、被災地でも安全に給油することを可能にした。さらにドラム缶3本分が入る「どこでもスタンドmini」も開発。「どこでもスタンド」を拠点にし、「mini」をさらに被災者に近い場所に設置することで、被災地における燃料のサプライチェーン構築を可能にした。
「燃料屋が燃料を届けるのは当たり前。被災地で必要なのは現地で活動するスタッフの爪切りだったりする。足の爪が伸びて体に食い込んでしまったら、現地で思うように仕事ができない。そこまで考えて被災地支援ができるのは当社だけだ」(横田氏)。
現在では、被災地入りした際のスタッフ用の仮設ユニットバスまで備蓄している。燃料給油のプロはこれからも、いつなんどき、どんな過酷な現場でも、燃料を届け続けることだろう。
(了)
編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年11月25日号(Vol.52)掲載の記事を、Web記事として再掲したものです。(2016年7月13日)
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