過去の震災における都市ガス関連の被災事例

阪神・淡路大震災では、大きな被害を受けた兵庫県および大阪府を中心に85万7,400戸を対象として、都市ガスの供給が停止された。この際は、中圧導管の復旧を先行させたうえで、供給停止中の5ブロックを約220のセクターに細分化し、早期着手が図れるところから作業を開始する形での取り組みが進められた。

この結果、25日後の2月11日には中圧導管の復旧がおおむね完了し、52日後の3月10日には8 割の消費者への供給が再開された。震度7 の揺れに見舞われた地域では供給再開に相当の時間を要したため、事業者ではLPガス業界と連携しながら、風呂やシャワーの提供、代替熱源の提供などを行った。

最終的には、約90日後の4月中旬までには、導管もしくは代替手段によるガスの供給が再開されることとなった。

広い範囲で被害が発生した東日本大震災での一般ガス事業者の被害を表3にまとめた

供給を停止した事業者は全部で16あり、462,528戸への供給が停止した。中でも最大の被害を受けたのは、仙台市ガス局であり、沿岸部に立地する港工場が津波により甚大な被害を受け、358,781戸への供給が停止した。

復旧までには最大で54日間を要した。これは阪神・淡路大震災における約90日に比べても大幅な短縮が図られたといえる。

なお、都市ガスの漏洩による被災事例はこれまでないとされているが、関連性が疑われる事例は数件発生している。阪神・淡路大震災におけるガス中毒死事案や小売店地下でのガス爆発事件などである。

ガス業に望まれる受援計画

ガス業においては、緊急事態における影響範囲が非常に広いため、保有する経営資源のみで対応することは現実的ではない。LPガス事業者であれば、各都道府県LPガス協会や日本液化石油ガス協議会、都市ガス事業者であれば日本ガス協会といった業界団体を通じて、他事業者の支援を要請することが一般的な対応となる。

このように、事業に関する情報を業界の中で共有することは、独占禁止法上の問題を生じるのではないかとの懸念もあると思われる。しかし、「震災等緊急時における取組に係る想定事例集」(2012年3月、公正取引委員会)によれば、各会員企業の報告内容が業界団体から各会員企業に伝えられないようにすること、参加や順守を強制しないこと、事業者間の公平が図られていること、必要最小限の期間に限定して実施すること等を要件として、製品供給に関する調整等を業界団体が行ったとしても、独占禁止法上の問題は生じないとされている。

この想定事例集には「行政機関による行政指導によって誘発された行為であっても、独占禁止法違反行為の要件に該当する場合には」独占禁止法を適用すると明記されており、業界団体においても会員企業からの報告の取り扱い方については、単に経済産業省からの指導を受けるだけではなく、独禁法上の問題を生じないように、手順を事前に確立しておくことが重要だと考える。

また、ガス業は、災害対策基本法に基づく指定公共機関および指定地方公共機関の指定を受けていることが多く、地域防災計画と直接的に関連する復旧対応についてはすでに計画を策定している事業者も少なくない。しかし、各事業者において、緊急事態には支援を受けることを前提とするのであれば、事前に支援を受ける規模や日数について想定を行い、これら支援部隊の寝泊り、食事、排せつ、休憩といった兵站補給の部分についても、十分な検討を行うことが望まれる。

過去の経験上、支援部隊を100人受け入れるとした場合、その支援部隊が円滑に活動するためには15人程度の要員を充てる必要が出てくる。このような人員を確保することは到底困難という事業者であれば、横浜市LPガス災害対策事業協同組合のように小規模事業者で事前に相互支援を目的とした団体を構成したり、個別の事業者との間で支援部隊のみならず事務要員も含めた要員派遣支援を協定したりする事前の努力が必要だと考える。

復旧費用についての資金手当てについても検討したい。仙台市ガス局の資料によれば、復旧対象戸数約31万戸に対して、要した導管等修繕費用が約21億円、支援部隊の受入れ等に要した費用が約44億円、合計65億円にものぼる。各事業者において想定されている復旧対象戸数がわかれば、費用を見積もることができる。業界団体を通じた支援部隊に関する支払いは後回しにすることができても、寝泊り、食事、排せつ、休憩といったテーマに関する支払いは、緊急事態になると現金支払いを求められることが多い。借入、保険、自己資金の3つのバランスを考慮し、このような急激な資金需要に対してもどのように対応するかは事前に検討しておくことが望ましい。

次回は、ガス業における事業継続計画を策定するに当たり、検討していくべきポイントを解説する。

(了)