初動対応を支える保安・導管データの可用性確保

東日本大震災における火災や津波等の影響により、一部のLPガス事業者がお客さまに関する保安データを喪失したことが報告されている。データを電子化してバックアップを取っていた事例や電子データが記録された媒体を避難時に持ち出していた事例など復旧活動への移行がスムーズに行われた事業者もあるものの、紙の帳簿のみで管理していた事業者では、お客さまに関するデータを喪失したことで、従業員の記憶や断片的な記録に基づいて記録を復元する作業を進めざるを得ず、復旧作業に大きな支障をきたした。

このような事態は、都市ガス事業者でも発生する可能性がある。実際に、東日本大震災においても津波の影響により本社に被害を受けた事業者が存在する。この事業者では、データを保管しているサーバーなどを本社から避難させることができたため、対応を継続することができた。

仮に都市ガス事業者が保安関連のデータを完全に喪失した場合、自社が管理する長大な導管が記録されたマッピング図面などが使用できなくなる。このことが復旧活動に与える影響は深刻なものになる可能性が高い。適切なバックアップなど保安データの可用性確保のための対策は都市ガス事業者にとっても極めて重要である。

応急対応や事業継続対応における応援要員の必要数

初動対応が終わり、被害の概要が分かった段階で、都市ガス事業者であれば日本ガス協会、LPガス事業者であれば都道府県LPガス協会を通じて、応援要員の派遣を他の事業者に要請することができる。この段階での対応を検討するうえで、最大何人の応援隊受け入れが必要になるかを見積もっておくことは、その後の対応の具体的な検討に欠かせない。

この点、都市ガス業においては、仙台市ガス局の前例が参考となるだろう。復旧対象戸数約31万戸となった仙台市ガス局に対し、日本ガス協会を通じて派遣された応援要員の人工は、72,300人日である。あえて単純計算すると、1万戸の復旧対象があれば、トータルで2,300人日が必要ということになる。

また、日本ガス協会の先遣隊は3月13日に仙台市に入り、4月17日に日本ガス協会復旧隊解散式が行われたので、復旧隊の派遣期間は約35日であり、ピーク期における1日当たり最大支援要員は4,000人に達した。乱暴な計算をすれば、1万戸の復旧対象がある場合、1日当たりの支援要員は最大約130人に達する可能性があるといえる。

人数を見積もった上であれば、寝泊まり、食事といった生活上の検討を具体的に進めておくことができるし、災害などの緊急時においても取り急ぎ確保しなければならない宿泊施設の量についてもメドがつけられることになる。

事業継続対応では優先順位に沿った対応が重要

都市ガス業における自社の工場や積み下ろし拠点、LPガス業における仕入先の充填所などサプライチェーンの結束点となる重要拠点に被害が生じた場合、ガスの調達正常化には相当の期間を要する。

このような事態が発生した場合に備え、お客さまを何らかの基準に基づいてランク分けし、対応の優先順位をつけておくべきである。これは、LPガス事業者でも都市ガス事業者でも同様である。

LPガス事業者の場合、お客さまの敷地内にLPGシリンダーが設置され、おおむね1か月分の在庫が保管されている(軒下在庫)。このため、敷地内の導管の健全性さえ確保されていれば、調達の再開までに2週間~1ヶ月弱という時間的余裕がある。ただ、敷地内の導管に異常が発生したお客さまに対しては復旧工事の手配が必要であり、限られたガス工事業の対応要員をどこから先に派遣するかという判断が必要になる。

また、都市ガス事業者の場合、工場や導管が破損している場合でも、LPガスや圧縮天然ガスなどを原材料として普段都市ガスを供給されているお客さまが使用できるガスを供給する機械(移動式ガス発生装置)の設置により応急的に供給を継続する選択肢が出てくる。これらの機械の数は限られており、また設置にあたっては、安全確保のための様々な基準を遵守する必要がある。このため、この移動式ガス発生装置はどこにでも設置できるわけではなく、どこから先に設置するかという判断が必要になる。

医療機関や自治体の庁舎のように社会からの要請と社内の優先順位判断が通常一致する箇所はよいが、その後については、社会からの要請だけではなく、これまでの取引関係や資本関係などを考慮し、優先順位を検討する必要がある。この点については事前に基準を作成しておく方が望ましい。