現在、ISO で策定中の危機管理に関する規格は 10 以上ある。民間から公的機関まで、さまざまな組織を 対象にしている。まずは、ISO の基本的な枠組みと規格開発の背景を見てみよう。

品質マネジメントシステム(ISO9000 シリーズ) や環境マネジメントシステム(ISO14000 シリーズ) などで、すでに国内でも馴染みが深い ISO 規格。 発行するのは、民間の非政府組織である ISO(国際 標準化機構:本部スイス ジュネーヴ)だ。

同組織では、電気分野を除く工業分野について、 国際的な標準である国際規格(IS)を策定している (電気分野については IEC:国際電気標準会議が国 際規格を開発) 。その危機管理に関する規格が昨年 末から量産体制に入った。 先 陣 を 切 っ た の は 昨 年 11 月 に 発 行 さ れ た ISO22320 (危機管理−危機対応に関する要求事項) 。

今年7月∼ 8 月には、事業継続マネジメントシステ ム(BCMS)規格の ISO22301 も誕生する。このほ かにも、官民連携、演習・テスト演習・テスト、用 語、緊急事態における集団避難など、10 以上の規 格開発が進行中だ。  そもそも ISO では、主要な産業分野の標準化を、 TC(Technical Committee)と呼ばれる専門委員 会の下で行っている。TC 1(ネジ)や TC 2(ボル ト・ナット類)から TC 229(ナノテクノロジー) までがあり、 危機管理は TC223 (社会セキュリティ) が担当している。

■出発点は 9.11

TC223 の出発は、2001 年9月 11 日に米国で発生 した同時多発テロまでさかのぼる。9.11 以降、テロ 対策や、あらゆる災害への対策を強化していた米国 では、国家や自治体などの組織体系を見直すととも に、民間部門の危機対応力を高めるための仕組みと して、国際標準化機構(ISO)に対して、災害対応 力の向上に関する国際規格を開発することを呼びか けた。米国内で発生するテロや災害だけでなく、ビ ジネスがグローバル化した現在では、国際的な危機 対応力を向上させないと、米国だけではそれを達成 できないためだ。  

米国の働きかけを受け、ISO では 2006 年4月に伊フィレンツェで災害対応力向上の国際規格 を実現するための国際ワークショップ協定 IWA (International Workshop Agreement)にもとづく 会議を開催し、そこで米国規格協会(ANSI)が暫 定規格を作ることを提案した。ちょうどこのころ、 英国や日本、豪州やイスラエルでも、BCP の国内 規格やガイドラインを作っていたことから、それぞ れの参加国が規格やガイドラインを持ち寄り、国際 規格の大きな枠組みについて議論した。 ちなみに、日本の内閣府が事業継続ガイドラインを策定したのは 2005 年8月のことだ。  

この IWA 会議に参加した東京海上日動リスクコ ンサルティングの岡部紳一氏によると、会議では最 終的な合意まで取り付けることができず、ISO の正 規な策定手順にしたがって、事業継続の国際規格を 1から策定することになったのだという。  それを担当する専門的な組織として指定されたの が社会セキュリティ委員会 TC223 だ。  

現在、TC223 には、WG 1から WG 5まで5つ のワーキンググループがあり(図1) 、民間企業の事 業継続力だけでなく、公的機関も対象にした規格ま で幅広く検討・開発が行われており、社会全体のセ キュリティ向上を大きなミッションに掲げている。  WG1 ∼ WG 5までの活動内容と、それぞれが開 発している規格は次の通りだ。