大規模洪水に備えて
10月12日付の茨城新聞で報道された常総市職員による次のコメントは大規模洪水に対する危機意識を物語るものとして興味深い。 

「水害対応は初めての経験。どう動いていいのか分からなかった」。 
「各職場で地域防災計画の理解が浸透していなかった。今後はもっと踏み込んだ形の計画に見直し、マニュアルも作成し、職員に徹底させたい」。 

昨今、広くBCPは普及しているが、多くは大地震を想定したものである。大地震は広域災害であり自社だけでなく、ユーザー、サプライヤーなどの関係者も被災する可能性があり、事業継続・復旧のための検討範囲は広範にわたり、大地震を想定しておけば他の災害についても概ねカバーできるであろう、と考えられているのが理由の1つかと思われる。また、首都直下地震、南海トラフ地震など切迫性の高さが叫ばれているのも、当然、その理由と思われる。 

一般的に大規模な洪水は、地震災害との違いとして次の特徴があるといえる。
①河川水位、降雨量等から堤防の越水・決壊の予測が可能であり、適切なタイミングで予・警報の発信、避難勧告・指示の発令を行うことで被害軽減ができる。
②堤防決壊後、氾濫域の拡大には長時間を要するため、決壊場所付近以外では避難、浸水対策をとることで被害の拡大防止ができる。氾濫域は広大となるが、被害のまったくない地域もある。 

いずれも、時間経過の中で適切な対応を取ることで被害を軽減できることを示しているが、実際はどうであったろうか。

鬼怒川水海道水位観測所(常総市水海道本町)では、9月10日7:00時点で氾濫危険水位を超過していたとみられるが※4、当該観測所周辺地域への避難指示発令は同日9:50であった。 

常総市の地域防災計画では、避難すべき区域、判断基準及び伝達方法を明確にしたマニュアルを作成することとしているが、状況の経過に基づいた発令基準は明確化されていたのだろうか。今回の豪雨で同様に被災した仙台市では地域防災計画の中で避難指示発令は「1時間後には氾濫危険水位を超過する恐れがあると判断された場合」と明確に示している。長い時間を経て被害様相が変化する大規模洪水では、降水量増大から、出水、氾濫拡大、収束に至る過程でのアクションプランを策定することが重要である。 

常総市の洪水ハザードマップによると、鬼怒川流域、石井上流域に3日間の総雨量が402mm(概ね100年に1回起きる大雨)を想定して浸水シミュレーションを行っているが、常総市災害対策本部の設置場所である常総市役所本庁、本庁舎が使用できない場合の代替候補である常総市役所石下支所、常総市生涯学習センター、常総市水海道保険センターの3拠点、いずれも浸水予想範囲に入っており、実際、今回の洪水でも浸水被害にあっている。 

また、常総市で指定された43の避難所のうち、23は浸水想定域に位置しており、これらは2階以上を使用する前提となっている。実際に、本庁舎1階の電源設備が水につかって停電し、さらに屋外に設置された非常用設備も浸水により機能しなかったという。ハザードマップによれば、被災時に緊急物資の輸送、ライフラインの確保、避難活動などに大きな制約が発生することは容易に想像できるが、最悪ケースを想定し、このような制約が発生することを前提に全く浸水被害が想定されない地域を活動拠点とした緊急対応要領は検討する必要はないだろうか。 

このように、今回の洪水被害では、自治体として大地震以外の災害に対する潜在的危機意識の低さが改めて浮き彫りとなってしまった感が否めない。