災害情報源によって行動に差

東日本大震災では、3月中旬から下旬にかけて、多くの外国人が海外へ退避した。さらに、東京にあるドイツ、スイス、オーストラリア、ネパール、ケニア、エクアドルなど32カ国の大使館が、閉鎖または東京以外の場所へ一時的に移転。外資系企業でも日本拠点を一時閉鎖したり機能移転するところもあった。東京大学生産技術研究所の都市基盤安全工学国際研究センターでは、こうした外国人の退避行動と災害情報の関係を調査し、このほど結果をまとめた。それによると、海外への退避行動には情報源の信頼性が大きく影響していることなどが明らかになった。

法務省によると、日本に滞在している外国人登録者数は1990年が107万5317人、2000年が168万6444人、2009年が218万6121人と20年前から倍増している。このうち関東1都7県の外国人登録者数は2008年時点で97万9570人と、

全国の登録者数の約半数を占める。 震災前後の外国人の入出国者数の推移については、2011年の通商白書に紹介されているが、震災直後の3月12−18日には、入国者数が急激に減り、それに伴い出国者数が急増した(図1)。特に、再入国許可を有する者(主に留学生やワーキングビザ所有している長期滞在者とその家族)の海外退避の傾向が著しく増加した。その傾向は3月末まで続き、4月上旬にようやく回復をしている。

東大生産研究所都市基盤安全工学国際研究センターでは、こうした海外退避の行動に、災害情報がどのように影響しているかを明らかにするため、2011年5月下旬から6月下旬にかけ、関東1都7県に滞在していた外国人に対しインターネットでアンケートを実施し74カ国860人からの回答を得た(日本人との対比をするため、同条件で日本人から497の回答を得ている)。 

その結果、災害発生から2週間以内に国外へ退避したのは39%、関東以外の国内へ退避したのは21%で、退避しなかった人は40%にとどまったことが明らかになった。

国外への退避者は国別ではタイが最も割合が高く、ついで韓国、フランス、中国、英国、米国と続く。国内での退避はブラジルが最多で、ネパール、フランス、中国が多い。退避しなかった割合が高かったのはインドネシア、ベトナム、米国̶の順(図2)。 

退避に関する意思決定の理由としては、国外退避者・国内退避者ともに家族・親族からの要望、乳児や子供たちへの配慮が多く、逆に退避しなかった人の理由は個人の判断、会社の業務命令との理由が高かった(図3)。 

次に、「発災当日、1週間後、2週間後に重要であった情報」と、「入手できなかったり、不明確だった情報」について相関を調べたところ、「当日に重要であった情報」は、安否確認が最も高く、1週間後、2週間後はそれぞれ放射線レベルとその危険性が最も高くなった(図4)。 

一方「入手できなかったり、不明確だった情報」については、放射線レ

ベルとその危険度、政府の対応がそれぞれ高く、その傾向は1週間後、2週間後と時間が経つにつれ、より顕著になっている。 

調査ではまた、「信頼をおいた情報源」と「信頼をおけなかった情報源」について聞いており、この結果、国外退避者は海外報道や海外政府、海外研究機関など、主に海外の情報を信頼していたのに対し、退避しなかった人は、国内の情報を主に信用していたなど対応の差が明らかになった(図5)。

■退職者の職業と年収
職業と退避行動についての問いでは、国外退避・国内退避ともに割合が高かったのは学生と、外資系企業の社員であることが分かった(図6)。逆に、日本企業の社員や海外政府職員、フリーランス、自営業者は退避しない割合が高い。 また年収と退避行動との関係については、国外退避の割合が高いのは1800万円以上の高額所得者と、330万円以下の低額所得者で、職業と退避行動における結果を裏付けた(図7)。

調査にあたった東大生産研究所都市基盤安全工学国際研究センターの川崎昭如特任准教授は今回の調査結果を受け、「海外への退避が過敏すぎたとは一概に言えないが、少なくとも今後は海外のメディアや政府を対象とした情報発信を強化していく必要がある。また、日本政府の対応に関する信頼度が低いことから政府の信頼度を上げていくことが喫緊かつ最重要の課題」としている。さらに「国内に在住する・滞在する外国人への情報伝達経路なども構築していく必要がある」としている。