兵庫県立大学防災教育研究センター長 室﨑益輝氏

同じ場所で震度7が2 回起きるという前例のない災害となった熊本地震。犠牲者49人、行方不明者1人、さらに難生活による体への負担など地震の影響で亡くなったと思われる人は19 人に上る(5 月12日現在)。兵庫県立大学防災教育研究センター長の室﨑益輝氏に、熊本地震で教訓とすべきことを寄稿していただいた。


熊本地震は、いつどこで大地震が起きても不思議でないことを、改めて私たちに教えてくれた。それだけに油断大敵と用意周到で、不測の備えと不断の備えが欠かせないのだ。熊本地震は、「想定外」を言い訳にしない公衆衛生としての備えを、私たちに迫っている。

(1)不測の備え

不測の備えというのは、想定外という不測の事態に備えることである。熊本地震の被害とその後の初動の混乱は、複数の断層が連鎖して想像以上に大きな破壊が生じた、震度7の前震の後にさらに大きな本震が起きたという、不測の事態の発生に起因している。その不測の事態を事前に想定できず、それへの備えが欠落していたことが、2度目の揺れで多くの犠牲者が出る、対応の資源が足りず混乱を生むことにつながっている。

これについては、想定外を許さないように、自然を正しく理解するように努めること、災害の歴史から学ぶようにすることが、何よりも欠かせない。それに加えて、自分だけは大丈夫だとか、わが町には地震が来ないといった、根拠のない思い込みを排除することも欠かせない。想像力をたくましくして、悲観的に想定して「想定外」をなくすのだ。

とはいえ、いくら想定外をなくすように努めても、自然はとても深淵で人知の及ばない存在である。それゆえ、想定外は避けることができない。想定外は起きるものとしてとらえ、その想定外に謙虚に備える必要性を、熊本地震は私たちに教えている。それは、防災の計画や対応のシナリオにないことが起きたとしても、慌てることなく臨機応変に対処できるようにしておかねばならない、ということである。

そのためには、まず、基礎力や応用力を磨いておいて、いかなる事態にも対応できるようにしておくことである。状況付与型訓練を繰り返して、不測の事態にも打たれ強くしておくのである。次に、連携力や補填力を築いておいて、不測の事態を周囲の援助や補完で切り抜けるようにしておくことである。これは予想外の試験問題が出た時にカンニングでカバーするのに似ている。減災のためのパートナーシップの確立に日ごろ努めておかなければならない。