私は、阪神・淡路大震災を体験した防災の研究者の一人だということで、人と防災未来センターや市町村アカデミーさらには自治大学などで、全国の自治体職員の皆さんに、災害後の初動対応や復興対応のあり方について、講義をする機会をいただいています。

熊本大震災のような大規模な災害が起きると、いつも後悔というか無力感というか、複雑な気持ちに駆られます。自治体の職員の皆さんに対する私の研修が不十分だったことを、講義が自治体の職員の力になっていないことを痛感するからです。

その悔しい思いをぶつける相手を間違って、被災地の自治体の対応に対する「愚痴のようなつぶやき」になっています。職員の皆さんが不快な思いで私のメッセージを受け止められたとしたら、自戒を込めてあやまらなければなりません。

そこで今一度、自治体職員に対する初動対応の研修で、今まで私が伝えようとしてきた3つの原則について、これまた意地悪なお説教になってしまうのですが、コメントしておきます。

三つの原則というのは、「以心伝心」、「拙速要諦」、「補填残心」ということです。

「以心伝心」というのは、何よりもまず行政と被災者あるいはボランテイアが心を通わせることが大切で、相互の信頼関係を築く努力が欠かせないということです。この以心伝心は、行政職員にだけでなく被災者についても言えることです。苦しんでいるのは、行政職員も同じだからです。

「拙速要諦」というのは、スピード感をもって応急対応に取り組まないといけないのですが、スピードだけを優先して急げ急げでは、かえって混乱を大きくしてしまうということです。ポイントを押さえて、あるいは原点を忘れずに、タイムラインを意識しなければなりません。何のため誰のための罹災証明なのか、本当に罹災証明は急がないといけないのか、そこをしっかり抑えて考えて、「いい加減ではなく大雑把に進める」ことが欠かせません。

「補填残心」というのは、被災地の職員が身も心も疲れてしまってはならない、ということです。目先の仕事に追われるあまり、考える時間、被災者に接する時間をなくしてしまってはならない、ということです。そのために、応急対応でフル回転を余儀なくされるような状態をつくってはなりません。休養する時間も、家族に寄り添う時間も必要です。しっかり休養を取った方が、被災者にとっても良い対応が可能となります。


そのために補填というか応援が欠かせないということになります。全国からの応援を何倍も多くする、民間やボランテイアの力を最大限活用するようにしなければなりません。罹災証明の実務は、被災地の行政職員がしては駄目だというのが、昔からの私の持論です。それだけで、残心という次の一手を考えることができなくなるからです。罹災証明については、全国の応援職員だけでは足りないので、建築士会や建築学科の学生に応援を求めて、任せる勇気が必要だと思います。


いまさら理想論を言われてもと言われそうですが、被災地の自治体職員が休養が取れるように、どう応援すればいいかを外部の私たちが真剣に考えなければならない、と思っています。

(了)