「以心伝心」「拙速要諦」「補填残心」(自治体職員の災害時初動対応における3つの原則)【熊本地震】(5月31日のFBより)
室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
2016/05/31
室﨑先生のふぇいすぶっく
室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
私は、阪神・淡路大震災を体験した防災の研究者の一人だということで、人と防災未来センターや市町村アカデミーさらには自治大学などで、全国の自治体職員の皆さんに、災害後の初動対応や復興対応のあり方について、講義をする機会をいただいています。
熊本大震災のような大規模な災害が起きると、いつも後悔というか無力感というか、複雑な気持ちに駆られます。自治体の職員の皆さんに対する私の研修が不十分だったことを、講義が自治体の職員の力になっていないことを痛感するからです。
その悔しい思いをぶつける相手を間違って、被災地の自治体の対応に対する「愚痴のようなつぶやき」になっています。職員の皆さんが不快な思いで私のメッセージを受け止められたとしたら、自戒を込めてあやまらなければなりません。
そこで今一度、自治体職員に対する初動対応の研修で、今まで私が伝えようとしてきた3つの原則について、これまた意地悪なお説教になってしまうのですが、コメントしておきます。
三つの原則というのは、「以心伝心」、「拙速要諦」、「補填残心」ということです。
「以心伝心」というのは、何よりもまず行政と被災者あるいはボランテイアが心を通わせることが大切で、相互の信頼関係を築く努力が欠かせないということです。この以心伝心は、行政職員にだけでなく被災者についても言えることです。苦しんでいるのは、行政職員も同じだからです。
「拙速要諦」というのは、スピード感をもって応急対応に取り組まないといけないのですが、スピードだけを優先して急げ急げでは、かえって混乱を大きくしてしまうということです。ポイントを押さえて、あるいは原点を忘れずに、タイムラインを意識しなければなりません。何のため誰のための罹災証明なのか、本当に罹災証明は急がないといけないのか、そこをしっかり抑えて考えて、「いい加減ではなく大雑把に進める」ことが欠かせません。
「補填残心」というのは、被災地の職員が身も心も疲れてしまってはならない、ということです。目先の仕事に追われるあまり、考える時間、被災者に接する時間をなくしてしまってはならない、ということです。そのために、応急対応でフル回転を余儀なくされるような状態をつくってはなりません。休養する時間も、家族に寄り添う時間も必要です。しっかり休養を取った方が、被災者にとっても良い対応が可能となります。
そのために補填というか応援が欠かせないということになります。全国からの応援を何倍も多くする、民間やボランテイアの力を最大限活用するようにしなければなりません。罹災証明の実務は、被災地の行政職員がしては駄目だというのが、昔からの私の持論です。それだけで、残心という次の一手を考えることができなくなるからです。罹災証明については、全国の応援職員だけでは足りないので、建築士会や建築学科の学生に応援を求めて、任せる勇気が必要だと思います。
いまさら理想論を言われてもと言われそうですが、被災地の自治体職員が休養が取れるように、どう応援すればいいかを外部の私たちが真剣に考えなければならない、と思っています。
(了)
室﨑先生のふぇいすぶっくの他の記事
おすすめ記事
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方