私は、その2つの要点に加えて、さらに「不測の計画」あるいは「敗北の計画」をつくっておくことが重要だと考えている。災害対策本部が使えなかったらどうする、避難所が使えなかったらどうする、国の経済支援が得られなかたらどうする、職員が参集できなかったらどうするといった、不測の事態や失敗した場合の対処法をあらかじめ決めておくのである。

被害が最もひどかった国道28号線の南側。被害がない家の方が少なかった

(2)不断の備え

不断の備えとは、減災のためになすべきことを不断に怠ることなく実践することである。住まいのメンテナンスに始まってコミュニティの醸成に至るまで、減災文化の醸成というか日々の心掛けが、とても大切である。

この不断の備えでは、阪神・淡路大震災や東日本大震災で明らかになった、減災の常道をおろそかにしてはならない。熊本地震では、その常道としての日常の備えをおろそかにしていたことが、被害と混乱につながっている。家具の転倒防止や家屋の耐震補強などの常道は、想定外であるかどうかを問わず、なすべきこととして日ごろから実践しておくべきことである。

行政や公共機関の不断の備えとして、災害時に重要な役割を果たす庁舎や学校などの耐震化を、天井などの2次部材を含めて徹底すること、車中泊のリスクを踏まえその対策を事前に検討しておくこと、迅速に応急危険度判定などの被害調査が実施できるようにしておくこと、緊急支援物資の配送システムを民間業者の協力を得て作っておくこと、電力会社は倒壊した住宅に不用意に通電しないことなど、過去の大震災の教訓に学んで実践しておかなければならないことが、熊本地震ではできていなかった。

次の災害に備えて、行政もコミュニティも企業も家庭も、やるべきことを疎かにしていないか、やるべきことを見逃していないか、日々のその備えをしっかりと見直してほしい。日常的にできていないことが、非常時にできるはずはないことを肝に銘じよう。

 

 

室﨑益輝(むろさき・よしてる)
兵庫県立大学防災教育研究センター長、
公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、神戸大学名誉教授
工学博士(京都大学)。神戸大学都市安全研究センター教授、総務省消防庁消防大学校消防研究センター所長、関西学院大学総合政策学部教授、災害復興制度研究所長などを経て、2013年4月、兵庫県立大学特任教授に就任。中央防災会議専門調査会委員、消防審議会委員など、数多くの要職を歴任。
著書に『地域計画と防火(』勁草書房)、『危険都市の証言』(編著)( 関西市民書房)、『建築防災・安全』鹿島出版会)、『大震災以後』(編著) (岩波書店)など多数。