こうしたことを実現するためにRESASを用いるのは「目的外使用」ではあるが、RESASが保有するデータと機能が通常時の産業政策に限らず、災害時の特定企業救援にも利用できるのは明らかである。

RESASの活用は、普段使いをしているシステムを災害時にも利用する、という点でも大切である。災害時だけに利用するシステムは通常時には訓練・演習でしか使わないので、本番で他システムとの接続不良が発生したり、オペレータが不足したりして機能を十分に発揮できない場合がある。実際、熊本地震では、RESASのオペレータとノウハウが現場に近いほど不足(利活用の効果の認識不足、引継ぎ対象外など)していた。今後は、通常使用と災害時使用の目的を商工部門と防災部門の利用により有機的に融合し、BCPの概念に基づく通常業務への組み込みを検討すべきだ。大規模災害時には内閣官房・経産省・各経産局よるオペレータを災害対策本部へリエゾン派遣(兼務で)することも考えてはどうだろうか。

専任職員の任命と、災害対応業務としての明文化
②の県商工部門職員が住民対応業務に追われ発災後しばらく企業・産業の復旧支援の業務に手が回らない課題については、避難所から仮設住宅に移動した後の雇用・経済の確保の観点からも、担当者1名(たとえ兼務でも)を発災直後からの任務として遂行する必要ある。

住民第一はもちろんだが、細くとも企業復旧支援の初動開始のタイミングを早める必要があり(発災直後より企業担当窓口設置を防災計画に明記した京都BCPの動きなども参照すべし)、今後は災害対応業務として定義し明文化すべきだろう。

政府地方局と経済団体の連携による自治体支援
③のナショナルブランドの大企業における生産や営業といったアウトプットの復旧が必ずしも熊本域内産業活動の残留、地元企業との取引維持を意味しないという意識については、中央政府と自治体の意識・ミッションの違いの現れでもある。災害時における利害関係の調整は、政府地方局が域内経済団体と連携して取り組むべきだ。

今後求められる展開

今後のステップ(中長期、復興ビジョンなど)としては、企業・産業を指導・支援する国・県・市町村などの組織間の情報共有(通常時・災害時)の仕組みの構築が急務である。例えば、定期的な連絡・協議会を設置したり、各組織がバラバラに保有する企業情報を統合する仕組みも検討すべきだろう。

一方、企業に対しては、災害時には情報を拠出してもらえる信頼関係の構築が求められる。大規模災害時には、域内企業の安否確認、操業停止・復旧遅延に伴うインパクトを早期に分析・情報共有し、戦略的な支援を意思決定できる枠組みを構築すべきだ。こうした戦略に役立つRESASなどの分析ツールのオペレーションは、研修・引継ぎなどで必ず商工部門と防災部門に最低1名は維持・継続するなどのルールを作ってはどうだろうか。

これらを災害対応業務として正式に防災計画に明記し、担当者が正式な業務として発災直後から初動をとれる状況を作るとともに、首長以下の職員が、状況把握と緊急復旧支援を行う企業の選定と段取り、手配に関わる意思決定の訓練・演習を行っていくことで、レジリエントな地域経済が実現することが期待される。

 

 

渡辺研司(わたなべ・けんじ)
名古屋工業大学大学院教授
工学博士、MBA。富士銀行、プライスウォーターハウスクーパース、IBMビジネスコンサルティングサービス、長岡技術科学大学を経て、2010 年4月から現職。サイバーセキュリティ戦略本部重要インフラ専門調査会、ISO/TC292(セキュリティ・レジリエンス/ 技術委員会)、資源エネルギー庁 系列BCP 格付け審査委員会、農林水産省 農地・農業用施設関連減災総合対策委員会、日本電気協会・情報専門部会などで委員を務める。研究分野はリスクマネジメント、事業継続マネジメント、重要インフラ防護。