当日の市の対応

市が大雨洪水警報を出したのは19日の午後9時26分です。9時50分には防災情報メールで注意喚起をして、さらに10時には防災行政無線で注意喚起をしています。これは同市の水防計画の手順に書かれている通りの対応です。その後、午前1時には雨量が急に増え、1時15分には気象台が土砂災害警戒情報を発令しています。

市では気象台の警戒情報を受け、1時35分に市災害警戒本部、安佐北区・南区・佐伯区災害警戒本部を設置しています。ところが、事態はさらに悪化します。広島地方気象台は3時49分、同市安佐北区付近について、数年に一度の水準の大雨を短期間に観測した場合に出す「記録的短時間大雨情報」を発表します。各メディアの報道によれば、午前2時ぐらいから「家の中に水が入ってきた」などの119番通報が入り出し、3時20分には「11歳と2歳の子どもが生き埋めになった」「土石流で女性が流された」などの通報が相次いでいることが分かります。それでも避難勧告が出たのは4時半のことでした。市の危機管理監、および市長が避難勧告を出すことを躊躇したことは、各メディアのインタビュー記事を見ても明らかですが、未明の暗闇の中、下手に避難勧告を出せば、逆に危険な目に遭いかねないなどの考えもあったことでしょう。

ただし、批判を恐れずに言うなら、その議論は昨年10月、36人が死亡した伊豆大島の土石流災害で十分とはいかないまでも繰り広げられ、今年4月にはそれらの議論も踏まえ、内閣府(防災担当)から「避難勧告の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン案」が公表されています。

避難勧告のタイミング

もっとも、広島市では、①気象台から大雨特別警報が発表された場合、②避難基準雨量を超えた場合、③広島地方気象台と広島県土木局砂防課から土砂災害警戒情報が発表された場合、④巡視等によって危険であると判断した場合、⑤土砂災害緊急情報が通知された場合、のいずれかに該当した場合に避難勧告を検討することを水防計画で定めていました。今回、①の特別警報は発表されていませんが、②の雨量については、午前3時には多くの地区で基準を超えています。③の土砂災害警戒情報も午前1時15分に出されています。ところが、水防計画の「降雨状況を勘案する場合の避難勧告フロー(土砂災害を警戒する場合)」には、雨量が避難基準に達しても、今後雨が降る可能性はない、または間もなく雨が止む場合は、避難勧告はしない(あらかじめ危険区域を巡視し、異常がないことを確認する)と記されていました。こうした表記方法が、意思決定を鈍らせた可能性は否定できません。

一方、内閣府の「避難勧告の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン案」は、従来の避難所への避難だけでなく、家屋内に留まって安全を確保することも避難行動の一つと明記し、空振りを恐れず早めに出すことが書き加えられました。また、避難が必要な状況が「夜間・早朝」になる場合でも躊躇することなく避難勧告を発令することと、場合に応じて「避難準備情報」を発令することを求めています。 同じ8月に大雨の被害を受けた兵庫県丹波市では、8月17日の午前2時、暗い屋外への避難は危険との判断から「家の中の高いところなどに避難してください」と、屋内での垂直避難を防災行政無線から呼びかけ、その後、午前3時過ぎに5地区の1万2000人を対象に避難勧告を発令しています。

もう一点、災害対策基本法の改正により、市町村長は避難勧告などの判断
に際し、指定行政機関や都道府県等に助言を求めることができるようにな
りました。土砂災害なら国土交通省砂防所管事務所、都道府県・県土木整備
事務所などが挙げられます。これら関係機関との連携がどうだったのかは、
今後検証すべき点だと思います。