大槌町のシンボルで故井上ひさし 原作の人形劇「ひょっこりひょう たん島」のモデルともいわれている「蓬莱(ほうらい)島」
東日本大震災による死者、行方不明者が人口1万5293人のうち1287人(2012年4月当時)という壊滅的な被害を受けた岩手県大槌町で、地区防災計画の策定が進められている。被災した町民が自ら出した回答は、議論の経過を知らない人にとっては驚くようなものもある。大槌町安渡地区の地区防災計画策定に関わった災害社会学が専門の専修大学教授の大矢根淳氏に話を聞いた。


大槌町のなかでも被害が特に大きかった安渡地区では、地区住民1943人の1割を超える218名が犠牲になった。住民の津波に対する意識は高かったが、どこまで津波が到達するのか十分な検討がされていなかった。同じ海岸沿いでも津波の高さや威力は地形によって大きく異なる。それぞれの避難場所や避難方法を地域防災計画の中で細かく指定することには限界がある。そこで安渡地区では、学識者らの指導のもと、2013年4月に地区防災計画を策定した。今年の3月に発表された大槌町地域防災計画には、安渡地区津波防災計画が地区防災計画として位置づけ、組み込まれている。

安渡地区は、大槌川を挟んで市街地と隣接する沿岸部に位置し、もともと水産業が盛んな地域だったという。1933年に起こった三陸沖地震など、過去に津波被害経験している大槌町のなかで、安渡地区は2005年には安渡2丁目町内会が自主防災事業部を組織し、年に数回の防災訓練を行うなど、町内でも特に防災の意識が高い地域といわれてきたという。2010年に発生したチリ津波地震では県内随一の避難率で、その後も避難行動と避難所の運営を独自に検証し、明らかになった課題を訓練に生かす取り組みも行っていた。しかし、その安渡地区でさえ、東日本大震災によって住民の1割の命が失われた。犠牲者のなかには地域防災の担い手である消防団員も含まれていたという。