2015/01/20
C+Bousai vol2
【検証 長野県神城断層地震の対応】
救出活動の限界
しかし、課題が無いわけではない。
被災がひどかった大北地域に限っていえば、公設消防により救出された例はわずか2件にとどまる。
地震が発生した11月22日は、午後10時半ぐらいに最初の電話が入った。内容は、被災中心地から離れた八峰根のロッジで、倒れてきたスキーで手を切ったという軽傷だった。その後、11時ぐらいに被害が最も大きかった白馬村の神城地区から住民が下敷きになっているとの救助要請が入り、救急車が出動。現地に到着すると、地元住民が下敷きになっている現場へ案内してくれ、救出活動にあたった。救出した被災者は、20キロほど離れた大町市内の病院に搬送。代わりに応援の救急車が広域消防本部から駆けつけ、もう1人を救出。公設消防での救出はこの2件だけだ。
消防の活動が遅かったわけではない。白馬村、小谷地域を管轄する北アルプス広域消防署には、常時緊急出動できる車両が2台しかなく、職員はわずか8人体制だ。毎日、1人が非番になるため、実質動けるのは7人。1台の救急車あるいは消防車に3人が乗って出動すれば、1人しか残らない。これで、約447平方キロメートル、人口約1万2000人の地域を管轄するわけだから、手の回しようがない。
驚くことに、白馬に次いで被害が大きかった小谷村からは救助要請も入っていないという。小谷村では、家屋の全壊などが比較的に少なかったこともあるが、被災直後から地元消防団が見回りを開始し、危険家屋の住民を避難所に移すなどの活動にあたった。もともと、1軒1軒が離れポツリポツリと建つ山間部では、近所を見回るだけでも限界がある。その意味では、消防団の活動が公助の限界を助ける上では今後も期待されることは間違いない。
被災者が加害者になる
問題は、公設消防に限界があるとはいえ、住民が危険な地域で救出活動にあたることが、十分な検証がないまま「美談」とされてしまうことだ。現地には、1階がつぶれ、2階が中ぶらりんになった建物もある。ちょっとした作業で、建物全体のバランスが崩れ、二次災害に発展することは十分考えられる。
今後の対策として求められることは、当然のことながら、住民による救出活動の負荷をなるべく減らすために、耐震化や家具の転倒防止について、一層推進していく必要があるということ。特に1人暮らしの高齢者などは、費用のかかる耐震化への理解を得ることは難しい。しかし、仮に被災してしまった時に、救出にあたってくれる近所の方までも危険な目にあわせるかもしれないということを認識してもらえば、多少なりとも耐震化への動機付けにはなるかもしれない。支援者側だけでなく、要支援者の防災教育が求められる。
一方で、救出する側にもルールが必要だ。勇猛果敢に被災家屋から被災者を助けることは、結果が無事ならば、それほどありがたいことはないが、もし自らが被災すれば、自分を助けようと、さらに多くの人が被災する危険性もある。
例えば、見回りに行く時には必ず2人以上で回る、危険性の判断を十分に行った上で自らの安全性が確保できれば救助にあたる、そうでなければ公設消防の到着を待つ、救出後の搬送先を決めておくなど、あらかじめ対応の心得を持っておくことも重要ではないか。
C+Bousai vol2の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方