前震でラインを止めた

熊本地震では、4月14日午後9時26分の前震で5強、16日未明(午前1時25分頃)の本震で震度6弱の揺れに見舞われた。

同社工場は社員が322人(当時)おり、製造関連部門は24時間体制で平時から2交代で従業員が勤務している。ほとんどが地元に住んでいる。前震の発生時には、このうち約50人が勤務していた。

災害時には、対策本部前の空き地が一時避難所になることが同社の災害対応マニュアルでは決められている。4月14日、大きな揺れがあると全従業員が避難場所に集合した。同時に既に帰宅していた災害対策本部メンバーが参集した。震度5弱以上の揺れを観測したら自動的に対策本部が立ち上がり、半径5㎞以内に住む対策本部メンバーが参集するというのもマニュアルに書かれていることだ。発災から15分後には対策本部が立ち上がった。集まったメンバーは18人。鈴木社長も直ちに会社に駆けつけ陣頭指揮を執った。

工場の生産ラインは、大きな揺れがあると自動的に止まることになっているが、前震では止まるレベルではなく、稼働を継続していた。ラインは一度止めると再稼働するのに数日を要する。それは、フィルムの原材料は特殊な溶液で、止めるといったん溶液をすべて抜き取り、再び調整して、均一な製品を作るまでにかなり手間がかかるためだ。

しかし、鈴木社長は、繰り返し起きる余震に対してラインを止めることを決定。「安全確保や設備保護そして製品品質への影響など総合的に考えて停止すべきと判断した」(鈴木社長)。

対策本部では、従業員の安否確認と工場内、地域の被害状況の確認作業が直ちに行われた。震度5強以上の地震で同社の安否確認システムは自動発報される仕組み。地震発生後すぐに、ほぼすべての社員の安否の確認を終えた。

工場内の被害状況は、従業員が避難時に可能な範囲で目視しながら避難することになっている。報告では大きな被害は出ていないことが確認され、同時に対策本部メンバーが工場内、敷地内で水漏れや配管から溶剤や蒸気が漏れたりしていないかを確認した。停電はなく、ライフラインに影響はなかったが、余震が続くため、しばらく対策本部前にとどまってもらい、余震が落ち着いた夜中の11時55分に解散をさせた。

「もしかしたら」の支援

写真を拡大 富士フイルム本社と九州は、 災害対策用ウェブシステムを使って情報を共有した(写真提供:富士フイルム)

一方、東京六本木のミッドタウン内にある富士フイルム本社にも対策本部が立ち上がり、直ちに現地との連絡がとられた。安否確認や被害状況、対応状況はすべて災害対策用ウェブシステムで共有できる仕組みになっている。対策本部に来なくてもiPadでもアクセスして情報が共有できる。

東京本社では、大きな被害がないとの確認を受けたが、もしかしたら従業員の家族や近隣で被災している人がいるかもしれないと、提供できる水や食料品を現地に発送することを決め、翌日トラック便で出発させた。また、現地からの報告で工場建物に重大な被害がないことは確認できたが、念のためゼネコンに躯体の検査をしてもらうことを考慮し、翌日に連絡をとった。この一連の初動が、後手後手になるはずの災害対応において、完全に先手を打てる結果につながった。