一般社団法人 海上災害防止センター
防災部長 萩原貴浩氏

「事故が発生しないように備えはするが、事故が起きることを前提とした対策ができていない」地震、水害などの自然災害、火災や爆発事故、あるいはサイバー攻撃などのITセキュリティを含め、あらゆる危機管理において日本の弱点と言われるのが、危機が起きた後の対応である。一方、海の世界では国際条約により、標準的なカリキュラムに沿った様々な危機管理の教育・訓練を受けることが義務づけられているという。船舶火災などの海上災害を中心に数々の大規模事故対応にあたってきた一般社団法人海上災害防止センター防災部長の萩原貴浩氏に、日本の危機管理力を高めていくポイントを聞いた。

 

  Q1.  数々の重大事故の対応にあたってきた萩原さんは日本の危機管理をどう評価していますか?

事故が起こらないように祈るのが日本の危機管理のベースにあり、なおかつ法律で決められた安全を守るだけで、自ら考えて守る文化になっていないことが問題です。実際の現場で起きることは法律以上に複雑です。法律がカバーする部分はあくまで読み・書き・そろばんみたいなもの。必要条件であっても十分条件ではありません。また、事故が起きたときの災害イマジネーションにも欠けていますし、事故の経験は「財産」であるにも関わらずしっかりと継承されず途切れていることも問題点として挙げておきます。

なぜこのようなことが起きているかと言えば、日本人は事故を「恥」ととらえるからです。何が教訓になったのかは忘れ去られ、出来事として事故があったという事実だけが残るのです。現場をレベルアップさせる貴重な経験なのに、何も後輩に継承されないのが日本の危機管理です。

 

  Q2.  具体的に欠けている災害イマジネーションについて教えてください。

例えば、地震の防災訓練においてお年寄りがよくバケツリレーで消火活動しているのを見かけますよね。でも、実際の地震で電柱がそばに倒れていたらどうなりますか。感電しますよね。本来、災害では何が安全なのか、どのように避難するのかなどを含めて考えなくてはいけない。しかし、一方ではこういった活動が賞賛されるのが日本なのです。単に「頑張っている」からというだけで評価することは危険です。

もし、地震で人が瓦礫の下にいたとしても、助ける能力がないのなら、目立つ印をつけて応援を呼ぶとか、今の被害を拡大させない対応を優先に考えることが大切です。危険を顧みず救出にあたることはカミカゼ・スピリッツと言われても仕方がない。災害イマジネーションがあれば、瓦礫の下から安全に住民を救出するためのレスキュー技術を住民自らが身に付ける必要性を感じるはずです。安全を確保せずに人を助けることだけを美化することはとても危険です。自らの能力・安全を無視して助けることと共助は全く違う。それぞれが自分の技量レベルに応じて対応するのが本来の共助です。