状況に応じて計画を変更する

ブルーシートがけや応急措置は、エリアごとに3人1組の計20チームで行う計画を立てたが、壊れ方がひどく危険も伴う被災現場には、安全対策を強化できるよう2班合同の作業に組みかえるなど、その都度体制も見直した。小山社長は「次に起こることが正確にわかるはずはないので、毎日計画を変更することになるだろうし、また、そうしなくては柔軟に対応できない」と最初から社員に伝えたという。

梯子がなくても屋根に上って作業できるよう高所作業車も初めてリースした。前回の台風災害の際、こうした車両が必要と自主的に免許を取っていた社員が数人いた。「社員の真面目さに驚かされました」と小山社長は語る。

社員、パートナーに手当支給

台風に備え、大量のブルーシートは備蓄していたが、不足することを想定し、グループ会社に支援要請。被災した社員がいるかもしれないことを見越して、生活用品などを見繕って送ってもらうよう、いわゆる「プッシュ型」の支援を依頼した。「社員に何が必要か聞き取ってから要請するのでは手間も時間もかかってしまいます」(同)。

福岡で事業を営む小山社長の実兄が、東日本大震災で起きたことなどを東北の工務店から聞き取り、アドバイスをしてもらったことでこうした先手が打てたという。

実際、本震により、多いときは半数以上の社員が避難所や車中泊を余儀なくされた。それでも会社には多くの社員が出てきてくれた。小山社長は、社員や家族に対して、4月末までは会社で食料を提供することを決め、自社で炊き出しを行い、朝昼晩、すべての食事を提供した。また全社員に5万円の手当を支給した。

「被災地では職人の賃金が上がり、職人の取り合いが発生する。悪質なビジネスも発生する」。これも兄が東北の工務店から教えてもらったことだという。

同社は職人を「パートナー」と呼んでいるが、まず被災したパートナーに対しては見舞金を支払い、さらに全パートナーを集めた会議で特別手当を支給し賃金も上乗せすることを約束した。小山社長は「平時から信頼できるパートナーさんばかりですから、こういうときだからこそ大切にしなくてはいけませんし、長期的にしっかり協力していただけるよう、できる限りの配慮をしました」と説明する。

県外からの職人も多く来てもらえるようにした。これも平時からの取り組みが功を奏した。鹿児島県の工務店と台風被害の際に相互に応援協力ができるよう、災害協定を結んでいたのだ。過去にも何度かお互いに応援協力の実績があるため、今回も多くの職人を派遣してくれた。「県外組をどれだけ集められるかというのが勝負でしたし、これからもそうだと思います」(同)。

県外から職人が生活に困らないよう、あらかじめホテルも押さえていた。それでも、次から次へとホテルの空き室が埋まっていき、借り続けることが難しくなったため、直ちに空いているアパートも押さえ30数人が泊まれる形を整えた。

外部からの職人が多く来ても、その力を発揮してもらうには指揮を含めたマネジメントが求められる。同社では、土地勘が無い県外の職人でも物件の場所や地震被害の傾向などが把握できるよう、自社の100%出資会社である屋根職員を育成する会社に依頼し、地元の職人が県外の職人と一緒にチームを組める体制を整えた。

新築の工事を予定している顧客や、工事中の顧客には、地震による作業の遅れでトラブルが起きないかリーガルチェック(法的に妥当か専門的知見からチェック)も実施。東日本大震災の工務店支援にあたった弁護士事務所から、工事の遅れや、着工の遅れがトラブルにつながらないための知識についてレクチャーを受け、書面で顧客に説明し理解を得た。

社員に出口を示す

地震から2カ月以上が経った今(6月末現在)でも同社では復旧工事などで多忙だ。「通常業務をこなしながら、復旧活動をやってるということは、ものすごい作業量。社員はいつまでこんな時間が続くのか不安に思っていると思います。疲弊させないためにはどういう目標でいつまでに終わるスケジュールなのか出口をしっかり見つけてあげることが必要」と小山社長は強調する。

4月末に作ったという復興ビジョンでは、社員とパートナーの安全と生活の安心を守ることと、今期の事業計画を白紙にしても顧客の復興を最大限優先することを明確に示した。

「契約の目標や売上の目標はすべて白紙にして既存のお客様の復興を優先することを示すことで社員のモチベーションが下がらないようにしました」(同)。

同社は今回の地震対応でブルーシートがけやちょっとした応急処置を無料で行っている。「被災時の大変なときに、お客様の負担を少しでも軽くということと、緊急時に費用の説明をすることは、社員にとってもストレスになり、スピード低下につながる」と小山社長はその理由を説明する。

「100年に1回の大災害に対して自分たちがやるべきことは何かを常に考え判断しています。損得より善悪を考えろというのが創業者である父からの教え。今期は順調にもかかわらず創業以来の赤字決算になるでしょう。でも、お客様に還元できるのは今。これは社長である僕にしかできない決断。社員には、業績に関係なくボーナスは出すから安心しろと伝えています」(小山社長談)。