7. 現地支援のあり方
現地の支援の方法は、富士フイルム、イオン、構造計画研究所に学ぶべき点だ。現地は、安全の確保で精一杯。その中で、いかに早く適切な人材を選定し先遣隊として送れるかがその後を大きく左右する。現地でどのような支援が必要かということも先遣隊が調整した事例は大いに参考になる。本社側から送られてくる大量の支援部隊の交通手段や宿泊施設の確保も現地が行うとなれば大きな負担となってしまう。こうした現地の負担を和らげる支援のあり方を見習いたい。

熊本地震では、支援部隊の派遣をためらったが故に対応が遅れたという反省が、本誌5月号で紹介した企業アンケートでも課題として挙げられた。政府も、被災府県からの具体的な要請を待たずに避難所・避難者へ必要不可欠と見込まれる物資を調達し緊急輸送する「プッシュ型」支援を実施したが、当初は現地で仕分けられる人がいなくて機能しなかった。
 

8. 現地の判断

被災した益城町役場には、全国の自治体から職員が派遣されている

では、現地の役割は何か。イオン熊本店では、店長が指揮を執り、地震後に顧客を避難誘導し、駐車場を開放するなど自ら判断し行動した。翌日からの販売方法も、何を販売するのか、屋外でどう販売するのか、いくらで販売するのか現地の店長が中心となって決めた。現地で判断できない施設面は本社側がサポートする。このように現地を支えるエスカレーションの姿勢に学べる点は多い。そして、現場が判断できるようしっかりと権限も与える。アネシスは、予算も含め課長である災害対策室長に権限を与えていた。平時と非常時の柔軟な組織体制の切り替えができるよう、平時の事業部責任者を執行部として災害対策組織の中に組み入れていたことも柔軟な対応を可能にした要因であろう。
 

9. 情報共有・リーダーシップ
現地を支援するには本社との情報共有が不可欠になる。どのような情報をどのように共有するのか。今回の地震では通信が途絶しなかったことから全体的に情報共有はうまくいったようだが、一方で、電話では現地に負担をかける危険性があることも考えておく必要がある。ある企業の社員が「本社と携帯電話で話をしている最中に余震が起きることが何度もあったが、電話は初動を鈍らせる」と話していた。

デマも起きた。災害時には正しい情報だけが発信されるわけではない。大切な情報は収集できず、余計な情報ばかりが飛び交う。その中でどう必要な情報を精査(トリアージ)するのか、情報が入手できない状況なら、いつまで待つのか、情報がなくても対応するのか、その決断も求められる。

日常的な情報共有の仕組みが生きた事例は再春館製薬所だ。同社はもともと、1000人近い社員がワンフロア間仕切りなしで働くほどコミュニケーションを重視している。こうした組織体質に加え、西川社長のリーダーシップにより組織全体で目標・目的が共有され、即座に全体調整がとれた活動が展開できた。経営でも「目標による管理(Management by Objectives)」が重視されるが、災害のような緊急時こそ組織が一体となって対応にあたれるような情報共有を考えておかなくてはいけない。

昨年、鬼怒川決壊の対応にあたった常総市では、災害対策本部と安全安心課の部屋が分かれ情報共有しにくかったことは検証報告書でも指摘されている。
 

10. 連携
情報共有をした上で「連携」が生まれる。この連携においては、イオンが自治体や陸上自衛隊、航空会社と迅速に連携できたことが参考になる。繰り返しの訓練で成し遂げた点は改めて強調しておきたい。

新産住拓が、県外から支援に来た職人と連携して対応にあたった事例も参考になる。土地勘のない人が突然支援に来ても力を発揮することは難しい。その点、同社は、自社の付き合いの深い地元の職人と外部の職人の混成チームを編成することで支援力をフルに発揮させた。さらに、一度編成したチームも状況に応じて合体したり、別々に活動させるなど日々状況に応じて柔軟に対応させた。専門的な用語を用いるなら「事業規模に応じた柔軟な組織体制(ModularOrganization)」と言われる大切なことだ。

一方、自治体についてはどうだろう。多くの自治体から被災自治体に職員は派遣されるが、都道府県職員が来ても、市町村とでは普段からやるべき業務が違うし、災害時の対応を理解している人だけが派遣されるわけではない。被災自治体の職員が先頭に立ち指揮を執らねば復興作業は進まないが、基礎自治体が都道府県職員を指揮することは気分的にも困難という話も聞く。3.11以降、連携を強化するための「災害対応の標準化」の検討が行われてきたが、普段一緒に働かない人とチームプレーができるようにする共通のルール(Incident Command System)や制度を考えていく必要がある。
 

11. 状況認識の統一
新産住拓では、全社員が住宅の被害状況をなるべく正しく把握できるためのチェックシートを作ったと紹介した。これも連携の上で重要な手段である。専門的な用語を使うなら「状況認識の統一(COP:Common OperationalPicture)」と言って、災害対応に関わるあらゆる人が同じ認識を持てるようにする災害対応の「肝」とされる。こうした対応を地元の工務店ができたことは、災害の種類こそ違うが、普段から台風などの対応を経験し、備えていたからだろう。
 

12. 社員のケア
そして、多くの企業が課題に挙げたのが社員のケアだった。特別手当を支給したり、交通費を無料にしたり、休暇を与えたり、様々な取り組みが見られた。被災した社員にどのような援助をするのか。社内を避難所として開放した再春館製薬所、熊本構造計画研究所の取り組みは大いに参考になる。社員を守ることが地域全体の負担を軽減することにつながる。

本当に社員の困っていることが何かをいかに把握し、どう対応するか。再春館製薬所が被災した全社員にヒアリングを実施したことは同社がどれだけ社員を大切にしているいるか、その姿勢が伝わってきた。学校も休校では子供を預かってくれる場所がない。ならば幼児から高校生まで自社の保育施設であずかるということは、被災された社員にはどれだけありがたかったことだろう。社長からの心のこもった手紙も社員を勇気づけたに違いない。今回の熊本地震で、ある企業では、被災したコールセンターを被災地から少し離れた別の場所に移そうとしたが、社員は移せなかったという話を聞いた。社員は家族を持ち、地域で暮らしている。短い期間といえども、勤務地を変えるということは容易ではない。ハードの対策だけでなく、社員のメンタルを考えBCPを見直すことも必要だ。

そして、新産住拓の小山社長が言うように、社員にとって一番の不安は「いつまでこんな仕事の大変な状況が続くのか」ということも頭の中に入れておかなくてはいけない。今後の方針やスケジュールを明確にすることが社員に「出口」を示すことであり、不安を和らげることにつながる。