シンガポールは面積710平方キロメートル(東京23区とほぼ同じ)という小国で、マレー半島の先端に位置しています。1965年8月9日にマレーシアから分離独立し、独立から約50年しか経っていませんが、その存在感、発展のスピードは、めざましいものがあります。

シンガポールには約560万人の国民がいますが、1人当たりのGDPは52,887.77ドル(2015年)で、世界で7番目の高さとなっています(日本は32,485.55ドル(2015年)で世界で26位)。また、インフラの整備度、競争力、ビジネス環境等の各種ランキングでは、常に世界の1桁台となっており、極めて投資環境の良好な国とされています。

その意味では、第二次世界大戦後に独立した国の中で、最も成功した国と言えます。日本人から見ると、シンガポールは、清潔で、きれいで、全ての面できちんとした国との印象が強いと思いますが、政治体制は世界でも類の見ない特徴的な体制となっています。

例えば、議会ですが、2015年の総選挙の結果、定数89人(選挙区選出議員:その他重要法案の投票権がない議員12人がいる)のうち、与党の人民行動党(PAP:People's Action Party)が83議席を占め、野党の労働者党(WP:Workers' Party)が6議席という結果となりました。これだけ見ると与党の圧勝のように見えますが、そうではありません。

与党の得票率は69.86%ですから、野党が30%以上の得票があったことになります。しかしながら、選挙制度自体が与党に有利となっているため、このような結果となっています。

PAPは1965年の独立以来、1980年の総選挙まで全議席を占有し、その後の総選挙でも、野党は1から2議席を得ているに過ぎませんでしたが、2011年の総選挙で野党が6議席を得たことから、政府与党が驚愕する事態となりました。

ちなみに、2015年の総選挙の投票率は93.56% でしたが、シンガポールでは投票は義務化されており、投票しない場合にはペナルティがあるため、このような投票率となっています。

現在の大統領はトニー・タン氏ですが、シンガポールは議院内閣制であることから、大統領は国家元首であるものの、儀礼的な存在とされ、実際の統治権を保持しないとされていました。

しかしながら、1991年に憲法が修正され、直接選挙によって選出されるようになったため、大統領権限も一部拡大されています。但し、政治的実権は与党PAPの書記長でもあるリー・シェンロン首相が保持しています。

このリー・シェンロン首相は独立以来の発展の礎を造り、国父とされるリー・クアンユー元首相の長男です。また、リー一族は政府系投資会社を実質的に支配しているともされ、経済面でもシンガポールを実施的に支配しているとされています。

このようなシンガポールの政治体制は、権威主義的政治体制(開発独裁)とも言われています。つまり、経済的繁栄を最優先し、一般国民の自由をある程度制約することを厭わないという政策が、政治体制の根幹をなしています。そのため、些細な罪であっても、高額な罰金を課されることがあります(地下鉄内での飲食、ゴミ・ガムの路上でのポイ捨て、水の汲み置き等)。

また、メディア等の報道への規制も厳しく、世界報道自由度ランキングでは、世界180ヶ国中154位(2016年)となっています。

公務員の給与が世界で最も高いのも、シンガポールと言われています。例えば、首相の給与は日本円で2億円以上とされており、これは世界の国家元首の中で最高額とされています。また、公務員の給与水準も非常に高く、贈賄等の政府機関での腐敗行為は、ほとんど皆無とされています。

一方、このようなシンガポールでも、ジニ係数が0.464(2014年)となっており、格差の広がりも懸念されています。2011年、2015年の総選挙でも国民の3割以上が野党に投票したということからも、シンガポールの政治体制が今後も安泰か否かは、予断を許さない状況と言えます。

(了)