■そして誰もいなくなった

一方、中小企業の場合はどうでしょうか。独学でBCP策定ガイドラインや市販の教科書を読んでも納得のいくものが作れない。行政や団体が主催のBCP講習会を開いてもなかなか参加者は集まらないし、仮に集まったとしても端から諦めムードに包まれてしまうこともある。こんなBCPを指導する先生方も困惑顔でしょう。

私は先生方にたずねてみたい。みなさんはどこまでBCPの原則論を理解し、どこまで自信をもってこれに則った指導に当たられているのでしょうか。防災やリスクマネジメントなど、ご自身の得意な知識や経験の話だけでお茶を濁すか、BCPの専門用語のオンパレードで参加者を煙に巻くか、独自に解釈したBCP論で勝負するか、そのいずれかのアプローチをとっているのではないでしょうか。

もちろん指導講師のみなさんが不勉強だとか自己流で間違っているなどというつもりはありません。どの先生も熱心にBCPを理解しようと努めてはいるでしょう。ところがBCPとはこうやって作るものなんだと理屈では分かっても、心から納得できる一本筋の通ったものが見えてこないのです。先生サイドからでさえ、「正直、本に書いてあるようなBCPを作ったからといって実際に役立つとも思えないなあ…」とこぼす声が聞こえてきそうです。

けっきょくBCPを学ぼうとする企業担当者も、これを指導する先生も、上に述べたような理由でBCPに対する期待や熱意は徐々に冷めてしまう。講習会を主催するにも人が集まらない。こうして人々が次第にBCPから離れていってしまっているのが、今日の状況だろうと思います。

■「難しいから」ではなく「そこに意義も価値も見出せない」から作らない

BCPに関する国やシンクタンクのアンケート統計を見ると、企業がBCPを作れない、作らない理由として「知識やスキルがない」「BCPを推進する人材がいない」という回答が毎回上位を占めます。ならばBCPを教える講師やコンサルタントを増やせばよいのかというと、それが現状の解決策にならないことは先ほど述べた通りです。

そもそも私が実感として悟ったのは、「知識やスキルがない」からBCPを作らないのではなく、たとえ作り方を理解できても、そこに「意義や価値を認めていない」という、もっと根深い問題なのです。

手短に言えば、一般の人の目線から見て、今の日本のBCPにはあちこちに非現実的な部分があって、実践に応用するどころか、知識として受け入れることすらためらってしまう、ということです。

なぜこんなことになっているのか。思うに、BCPが欧米から日本に導入される過程で、何か化学変化のようなものを起こしてしまったのではないかと思えるのです。「BCPとはこういうもの。何かご不満でも?」などと澄ました顔ではいられないものがそこにある。

BCPのことを知れば知るほど見えてくる疑問。それを裏付けるように、BCP作りにチャレンジしようとする多くの企業担当者から聞こえてくるネガティブな意見の数々。それが何なのかを、これから見ていきたいと思います。

◎本連載のより詳しい内容については、筆者の最新作『今のままでは命と会社を守れない! あなたが作る等身大のBCP』(日刊工業新聞社、2016年8月末日発売)をご覧ください。

(了)