1、PTSI(post-traumatic stress injury:心的外傷後ストレス損傷)について

PTSI(post-traumatic stress injury:心的外傷後ストレス損傷)はアメリカの戦争体験者に対するさまざまな心療用語として使われています。

PTSD(post-traumatic stress disorder)とPTSI(post-traumatic stress injury)の違いは、簡単に言うと最後の「disorder:障害(長期的で治療困難というイメージがある)」と「injury:損傷(一時的で早期回復するイメージがある)」で、PTSIを使った方が、国のために戦ったという敬意の意味もあり、また、Stigma(スティグマ:傷痕心、恥辱心)を減らす意味もあるため使われているようです。

このビデオでは、どのような現場体験が消防士達の心に傷を付けてしまい、フラッシュバックなどの悲惨なシーンの再現、睡眠障害、摂食障害、アルコール依存、家族への暴言や暴力など、無意識に、そして徐々にPTSI(post-traumatic stress injury:心的外傷後ストレス損傷)に至り、その後の生活や現場活動に影響を及ぼしたかを語っています。

ケース1:いつも遊んでいた友人の子供を助けられなかったことによるPTSI

出典:YouTube/ London Professional Fire Fighters Association

友人宅が火災になり、よく一緒に遊んだ子供が2階の窓から泣き叫んでいたが、助けられず、死に至ってしまった。今でもその子の叫び声が頭に残っていて、日常生活のふとしたときに突然、思い出したり、また、火災現場出動中、脳裏に再生されることがある。

ケース2:殺人現場に出動したことによるPTSI

出典:YouTube/ London Professional Fire Fighters Association

幼児の転落事故という指令内容で出動したところ、2才くらいの子供の首が折れた状態で、母親が泣き叫びながらCPRを施しており、その横でご主人が「どうしたんだ?何が起こったんだ?早く助けろ!」と大声で救急隊員に怒鳴っていた。
後日知ったのは、実は家庭内暴力でご主人が子供を殺傷していたという事実だった。
その後、裁判所へ目撃証言書を提出するなど、何度もそのシーンを思い出さなければならず、PTSIに至った。

ケース3:事故で悲惨な目にあった被害者と対峙したことによるPTSI

出典:YouTube/ London Professional Fire Fighters Association

交通事故現場に出動し、大破した車から子供を救助したが、手と足が轢断された状態だった。病院搬送後、命は助かったが、見舞いに訪れたとき、子供が「はやく歩けるようになりたい」と語ったとき、胸が張り裂けそになり、どう答えていいかわからなかった。

PTSIについてのコメント

出典:YouTube/ London Professional Fire Fighters Association

私たち消防士、レスキュー隊員、救急隊員は、一般市民が一生、遭遇することもないような悲惨な現場に日々出動しています。それらの現場で見たシーンは一生の売りに映像として残るようなショッキングなことが多く、一度、体験したことは巻き戻すことができません。

PTSIに至った消防士達は、EMSC(エモーショナル・メンタル・ストレスコントロール)を行いながら、さらに次の悲惨なシーンに出動し、そして、また、次のシーンと、その職務が続く限り、脳裏へPTSIに至った記憶を何度も重ねていきます。

PTSIの具体的な症状

①悲惨な現場体験が何日も頭に残っている。

②無意識にシーンを思い出してしまう。

③現場活動や日常生活に集中できない。

④必要以上に反省したり、後悔する日が続く。

⑤同じような現場体験をしたくないという気持ちが強くなる。

⑥家族や同僚に対し、不安定な態度を取ってしまう。
など


下記に日本語のPTSD評価尺度(IES-R)がダウンロードできます。

■PTSD評価尺度(IES-R)のダウンロードはこちらから
http://goo.gl/Z4yJVF
出典:IES-R - 公益財団法人 東京都医学総合研究所

また、下記の内容の一部も参考になるかも知れません。

■危機管理・対応マニュアル
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/tamasou/download/sassi_download.files/guidline_2.pdf
作成:東京都立多摩総合精神保健福祉センター・自殺総合対策 PT 事務局

PTSIなどの心的ストレスを予防する方法

①救助活動中、救急搬送中、死の判定はできないが、明らかに息を引き取った場合などの心の準備と現場引き上げ時には、手を合わせて祈るなど、自分なりの儀礼を身につけておくこと。

②ご遺体に接する時間は最小限とし、他の隊員や関係者へのPTSI予防などの配慮も考えて、遺体を見せないようにする工夫を行うこと。不織布でできた白い遺体シーツ(エンジェルシーツ)などで、カバーすることが多い。

③自殺現場に残された遺書や自殺した人の遺留品など、後で思い出しそうなものには気を留めないようにする。

④ご遺体の顔はできるだけ見ないようにする。特に悲惨な状態の場合は、強く印象に残ってしまう場合が多い。
エンジェルシーツの例