2016/10/04
誌面情報 vol57
質量分析計の革命…M908
そんな厄介なHoaxes(偽物)対策に威力を発揮しそうなのが、昨年10月末のCBRNe Convergence2015でも出展され注目を集めていたM908である。
かつて昭和の時代には、質量分析装置といえば、ガスクロ(Gas Chromatography)との組み合わせで、ほとんど大会議室程度の大きさの部屋いっぱいの装置が必要だった。また、分析部を真空状態にするのに何日かかかることもあった。
ところが今は高圧質量分析法(HPMS)という原理を用いて、小型の弁当箱程度の大きさになった。これによって、現場でハンディに精密で正確性の高い不審物判定ができるようになった。
しかも、サンプルの状態が、液体でも、気体、粉体でも可能だという。さらに、バルクの拭き取り検知・識別が可能で、防護服を着用した状態でも当然操作が可能で、極めて低い誤報率により、数秒で結果を表示できるなど、現場のニーズをよく把握している印象を受ける。4時間以上の運用が可能で、拡張可能なライブラリも備えているらしい。
リーチバックシステム
もう1つ、現場でのHoaxes(偽物)の判定に威力を発揮しそうなのがリーチバックシステムである。オランダ軍では、すでにCBRN偵察車両の分析機器で得られたデータ(スペクトル等)は、メールで専門の研究機関に送って専門家が判定するシステムを取っているらしい。
同様のことが、すでに日本の一部消防でも行われているという。現場の負担を軽くして、かつ迅速で正確な判定を得られるシステムと言えるだろう。日本で初めての受け入れ先は、2005年の千葉市環境保健研究所であるという。
このような動きが拡大すれば、我が国の検知体制も変わっていくのではないか。Haz Mat IDやGas IDを小さな消防局の現場要員が使いこなすのは容易ではないだろう。また、人には向き不向きがあるため、これらの解決策にもなるだろう。
予告電話、予告メール…CBRNの場合
CBRNの予告がされた事態も想定しておくことが大切だ。例えば、サリンのポリタンクを積んだ車を駐車したとか、RDDを後部に載せたバンを探せとか。これらを、どうせ偽物と無視することは危険である。
実際にこのような手法を取るテロリストが存在するらしい。典型的なのがIRAであるという。当局は、これらの予告にも可能性なしとして対応しないという行動方針は取れない。万が一ということがあるし、HVEにおいて、失敗が許されない場面があるからである。
さらに、便乗犯や模倣犯の存在も想定できる。即ち、重要な建物の空調装置下部に不審な液体容器が置かれていたといった報道がなされたとしよう。即座に、別の建物空調に化学剤を撒いたといった電話や、実際に類似薬品が散布されるといったことが想定できる。また、過去には(国内で)マスタードを塗り付けた手紙を送りつけるといった事例も確認されている。
オペレーションセンターとCBRN
米国などでは、HVEのようなケースでは各機関で10カ所以上の大規模なオペレーションセンターが設置され、そこに膨大な予算が投入されて批判の声もあるらしい。我が国では、むしろ臨時の指揮所が立ちあがり、そこに各省庁からの関係者が直前にやってきて座るというイメージだろうか。
また、そこに多大の予算をかけても、実際には機能しなかったという経験も、福島の大熊町オフサイトセンターで記憶に新しいところである。したがって、身の丈に合った、機能する指揮所を持つということになるが、そこで問題となるのがCBRN情報の集約と共有をどうするかという問題である。
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