●熊本地震における生活再建

静岡大学情報学部講師
井ノ口宗成氏

熊本地震では、「生活再建支援先遣隊」というチームを作り、現地を支援させていただきました。被災者が生活を再建するためには、「り災証明書」の発行が重要です。り災証明書とは誰が、どこでどのような被害にあったのかを明確にし、その後の補助金などの支援に活用するものなのです。しかし、り災証明書の発行は大量の事務作業が必要で、さらに不整合のあるり災証明書を発行してしまうと、その後の支援が滞ったり混乱したりするので、現地では大きな課題になっていました。

私たちのチームでは、生活再建を迅速に遂行するため、「被災者台帳システム」や「被災者再建システム」と呼ばれるICTソリューションを作り、社会実装しています。阪神・淡路大震災でり災証明書の重要性がクローズアップされましたが、その後の中越沖地震や東日本大震災を経て、「このようなものが生活者再建には必要なのでは」と考えて作ってきたものです。

り災証明書の発行には、まず被災者家屋の被害がどの程度であるかを明らかにしなければいけません。そのために「建物被害認定調査」が必要です。これは国で定められた基準に基づいて作業するものですが、システムではその調査の手法を効率化し、その場で短時間で調査員を育成することができます。実際にこのシステムを導入してくれた市町村は16、今からでもやってみたいと言ってくれている市町村が4あります。被害が大きかった市町村はほとんどが導入しており、熊本県ではこれまでできなかった「統一基準に基づく生活再建」を実現しようとしています。

システムの概要を説明します。基本的にはクラウドシステムで、ログインすると「応急対応」「建物被害認定調査」「り災証明書・被災届出受理証発行」「被災者台帳」といったメニューが出てきます。まず、建物被害認定調査です。調査内容をパターンチャート化し、結果をデジタルデータとして取り込んでいきます。ざっくりと、県内全体で11万1000棟くらいを回らなければいけないということが分かりましたので、県全体で何日後に調査を終えたいのか、そのためには何人くらいの人出がいるのかを算出し、調査を開始しました。

しかし熊本ではうまくいかない現実もありました。これまでの経験から1班で1日およそ50棟を回ってもらおうと思ったのですが、実際にやってみると1日に回れたのは20~30棟。これは1つの市町だけではなく、熊本県全体でそうでした。今回の熊本地震では家屋に残られた被災者への対応と重なるなどの原因がありましたが、その後も外れた予測を修正し、新たに人員を確保しながら調査を進めていきました。

調査が終わったら、次はり災証明書の発行です。ここでも想定外がありました。益城町では庁舎や大きな建物が利用できなくなっていたので、急きょ駐車場にテントを張って対応することにしました。一言でいうと簡単ですが、野外ではテントに電気もネットワークも引かないといけません。晴れていればまだいいですが、雨の日は大変でした。しかし、現実問題としてこのような屋外業務の環境整備も今後考えていかなければいけないでしょう。証明書の発行もこれまでの経験から1件当たり5分くらいで済むだろうと考えて計算をしていたのですが、こちらも予想を超えました。実際には平均して15分くらいかかりました。益城町の例ですが、1人で10棟以上の家を持っている高齢の方がおられ、1件にかかる時間が想定を超えていました。このような地域の特性も、考えなければいけない要素の1つでした。

最後に、熊本では今、さまざまな生活再建が進んでいますが、長期化する避難所の実態分析や被災者生活再建の実態分析を通して、これから「被災地に求められること」を解明する必要があると考えています。