Q8.EHSのメリットがわかりにくいとの指摘もあります。

グローバルビジネスのサプラヤーならCSRの監査を受けます。CSR監査の項目は、EHS+労働・倫理+マネジメントシステムです。過去に米国・ナイキがサプライヤーの児童労働で批判され、サプライチェーン全体に厳しい目が注がれるようになりました。アップルはサプライヤーに社員寮の2段ベッドの高さまで指定するほどの細かい要求があります。また、労働災害の責任は日本なら怪我をした本人にあると思われることもありますが、海外なら会社が訴えられます。環境および労働安全衛生を高いレベルで管理している裏づけとしてEHSがあるのです。

EUのCSRの定義は、「共通価値の創造」と「潜在的悪影響の特定と軽減」です。グローバル企業がサプライヤーに期待しているのは「潜在的悪影響の特定と軽減」だということです。株主も訴訟による高額な賠償金や違反の罰金を避けたいのでEHSに目を向けます。

これは、日本企業がグローバルにビジネスを広げ、サプライヤーを使う場合も同様なのですが、適切に管理できていない状況も多いようです。

Q9.EHSによる統合的なマネジメントでリスクが低減できるのでしょうか?

例えば、日本では労働災害が少ない国だと考えられています。確かに休業災害で見れば米国の20分の1ほどです。しかし、死亡災害に注目すると英国やスウェーデンより悪く、米国と同じレベルです。これは休業で済むような小さな事故なら日本的な社員教育を中心にしたボトムアップ対策が有効なのに対し、重篤事故の防止には効果が低いことを示しています。日本の鉄鋼会社は厳しい安全管理を実施していますが、それでも毎月のように死亡事故が起きています。「注意しろ、禁則事項を守れ」と作業者の負担を増やすことはよくありますが、マネジメントの責任はあまり追及されない。企業の安全管理のレベルは事故調査報告書を見るとわかります。マネジメントのどの部分に欠陥があって事故に至ってしまったのか。その欠陥を事故が起きる前から監査を通じて明らかにして是正することでリ
スクが低減できるのです。

Q10.クライシスマネジメントもEHSで可能なのでしょうか?

典型的な例としてISO14001には緊急事態がありますが、ほとんどの会社の想定は事業所内での化学物質の漏洩や軽度な労働災害程度しか想定していません。しかし、例えば米国のEHS監査員は施設にロケットを打ち込まれたらどうするかなど日本人では考えられないことまで問います。日本なら「起こりえない」で済ませてしまいますが、想定外をどこまで想定するかがEHSのレベルとも言えるのです。クライシスマネジメントに関しては、緊急事態(エマージェンシー)からクライシスへの転換点を考えることが不可欠となります。

Q11.これからEHSを始める企業にアドバイスをお願いします。

最初に必要なのはギャップ分析です。まず、あるべき姿(到達点)を明確にすることが重要です。ビジネスを国内に限定して、必ずしも高いレベルのマネジメントを選択しないのも1つの経営判断でしょう。グローバルにビジネス展開するなら、グローバル企業に学ぶことが重要です。そして、現状をしっかりと把握してギャップを明確にすることが必要です。重要なのはGRC、ガバナンス・リスク・コンプライアンスが機能する体制を整えることです。

(了)