経団連は、東日本大震災やタイで発生した洪水を受け、平時の備えや災害発生後の対応など、災害に強い経済社会の構築に向けた提言書をまとめた。企業・経済界に求められる取り組みと行政に求められる役割をそれぞれ「平時から」と「災害発生時から復旧にかけて」の2つに分けて整理するとともに、官民の連携により取り組むべき課題、継続的かつ着実に取り組むべき課題とを項目別に示した。 

経団連では、昨年10月4日から11月11日にかけ、会員企業1300社を対象に、東日本大震災における企業の対応についてアンケートを実施。個別企業の対応事例についても調査をしてきた。今回の提言は、こうしたアンケートや調査の結果を取り入れてまとめたもの。 

提言では、東日本大震災では広範囲かつ甚大な人的・物的被害が出たことと、企業の事業活動に影響を与える自然災害などのリスクが国内外に多く存在することの2つを問題意識の柱として掲げ、災害リスクの整理と、東日本大震災を踏まえた災害の規模・被害に係わる想定の見直しを行い、その上で各界における防災・減災や事業継続に向けた取り組みを再検証し、一層強化していくことが急務としている。

■企業の平時からの取り組み
企業・経済界に求められる平時からの取り組みとしては、主要な項目を地震対策10カ条としてまとめ、それ以外にハード的な対応が必要なものとして、自家発電設備等の予備電源の確保と、施設の水防対策の実施等を挙げた。

第1条 災害対策本部の体制整備と機能強化
第2条  社員とその家族の安否確認手段の多重化
第3条 実践力向上に資する訓練の継続的実施
第4条 全社員の防災意識の向上と社内人材育成の推進
第5条 適正な備蓄品目の選定と備蓄量の確保
第6条 施設の耐震化・不燃化と什器の固定の促進
第7条 流動性資金と復興資金の確保
第8条 サプライチェーンへの支援と連携強化
第9条 社内外の帰宅困難者に関する取組みの促進
第10条 地元自治体や地域との積極的な連携強化

第2条に掲げた「安否確認手段の多重化」については、昨年、経団連が行った調査で、安否確認システムや、衛星電話を導入済みの企業がそれぞれ回答企業の56%、24%にとどまり(図1)、東日本大震災でも通信の輻輳などにより、発災翌日までに全社員の安否確認が完了したとの回答が6割にとどまったことを受け、重点項目とした(図2)。

第3条の訓練についても、アンケートの結果、避難訓練(83%)や安否確認テスト(66%)の訓練実施率が高い一方で、帰宅シミュレーションの実施が1割以下にとどまっていることが明らかになり、継続的で実効力のある訓練が必要と判断した(図3)。

10箇条以外の重要項目として挙げた予備電源と水防対策については、被災施設において自家発電設備を保有していた企業が回答企業の5割にとどかず(図4)、電力供給可能期間は3日以内が7割を占めていたことがアンケートの結果、分かった(図5)。また水防対策については、津波対策において十分でなかったことが浮き彫りになった。

■企業の災害発生時から復旧に向けての対応
災害発生時から復旧に向けた取り組みでは、①初動、②事業継続、③社会機能維持、④被災者・被災地支援−の4点を重要項目に挙げた。

①初動 
 社員各自の身の安全の確保、二次災害の防止等
②事業継続 
 取引先や業界と連携したサプライチェーンの維持等
③社会機能維持(例:電力、ガス、金融、医療など) 
 業界を挙げた迅速な復旧、被災・復旧に係る情報発信等
④被災者・被災地支援 
 寄付、救援物資の提供、人的支援等

このうち、②の事業継続については、アンケートの結果、BCP(BusinessContinuityPlan)の策定済みの企業は回答者の半数を占めたが、そのうちの86%が企業単体としての取り組みで、グループ内で策定しているとの回答は51%、取引先まで含めているとの回答は9%にとどまり、さらに、災害時のサプライチェーンとの連携体制の構築状況については、連携体制が構築済み企業は回答企業の2割にとどまっていることから広く連携した取り組みを求めた(図5・6)。

■行政の平時からの取り組み
行政に求められる対応としては、法令等における対応と、行政に求められる対応そのものの2点からまとめた。
(1)法令等における対応
 ①大規模災害に対応し得る法制・体制の整備
 −災害対策基本法の見直し  
  社会環境の変化に応じた指定公共機関の見直し等
 ②民間における防災対策の促進
 −防災・減災対策に資する取り組みへの予算・法令等の面からの支援

(2)行政に求められる取り組み
・東日本大震災を踏まえた防災計画の改定
・過去の災害関連情報をアーカイブとして統合・保存
・道路、河川、学校など社会資本の災害強度の向上
・訓練等を通じた地域住民の防災意識の向上
・防災情報プラットフォームの高度化・共有化の推進
・広域災害に備えた地方自治体間での連携

このうち、法令関係については、災害発生時における各種法規制等に係わる主な要望事項として、タンクローリーに係わる緊急車両の扱いについて最寄り警察署への申請・認可手続きについての規制の緩和や迅速化、石油ローリー車の災害時優先車両としての無条件指定、緊急通行車両確認証明書の円滑な発行などを求めた。また、道路規制について環状7号線以内には車両はもちろん、バイク、自転車も交通規制の対象になっていることから、事業継続のための緊急人員を召集するための自転車およびバイクの通行を可能にすることや、緊急車両の優先順位をつけ、復旧に必要な企業を事前に登録して車両の通行を可能とさせることなどを要望した。

■行政の災害発生時から復旧に向けての対応
災害発生時から復旧にむけての対応は、法令関係として、民間による事業継続や復旧に向けた取り組みを迅速かつ円滑に進めるため一時的な法令等の弾力的な運用と各種規制の緩和を求めた。行政自身に求められる取り組みでは、国による被災自治体への人的・物的支援を挙げた。

(1)法令等における対応
 −代替品の使用や生産に際しての規制の緩和、緊急物資輸送に際しての規制の緩和等
(2)行政に求められる取り組み
・警察、消防、自衛隊が連携した人命救助、治安維持
・国による被災自治体への人的・物的支援
・国際社会に対する「強い日本」の発信
・被災自治体における行政機能の維持と受援体制の整備
・被災地内外での自治体間連携の推進

■官民の連携と継続的な課題
官民の連携により取り組むべき課題としては、①企業と地元自治体や地域との間での協力、②電気、ガス、水道、情報通信などのライフラインに係わる対応、③「活きた情報」の有効活用、④帰宅困難者対策の4点を挙げた。 

「活きた情報」については、国などによるリアルタイム、かつ一元的な被災地などに係わる情報の収集・発信のための仕組みが必要としている。 

今後継続的かつ着実に取り組むべき課題としては、ICT技術を活用した防災・減災システムの高度化の推進(地震、ゲリラ豪雨などに係わる監視や予測の精度向上)などを提言した。