ニトリグループの危機管理担当メンバー
BCPは分厚いマニュアルではない。策定後、訓練を重ねて浸透させることが肝要だ。有事のための訓練ひとつとっても、現場主体となってどう報告のスピードを上げて、どう効率的に動くかを現場のメンバーが考えていくことが重要となる。BCPortalの利用によって、「情報の収集と共有をスピードアップでき、部署の垣根を越えて協力体制を築くことができた」と語るニトリホールディングスのBCPの取り組みについて、導入までの課題と導入後の意識変革の流れを聞いた。

判断に必要な情報を現場から迅速に収集するために

1万人近い従業員を抱える株式会社ニトリホールディングスでは、緊急連絡/安否確認システム「エマージェンシーコール®」ならびに情報管理ポータルシステム「BCPortal®」の導入前は、さまざまな課題を抱えていた。

「リスク管理の部署がまだ設置されておらず、経験則で動いてはいたが各組織がバラバラな状態でした。組織作りから始めて、何が大切なのかと言えば、まずは第一報です。以前は何が発生したら第一報を流すのかという取り決めがなく、例えば店舗では重要なことでも本部では重要でないケースや、本部から見るとリスクがあることも店舗から見ると些細なことというケースもあったため、とにかくすべての情報を上げてもらって判断することが必要と考えました」(危機管理対策本部事務局総合企画室法務担当者)。

店舗スタッフから有事の際に本部へ連絡を入れるハードルが高いことが、第一報の遅れにつながっていることもわかった。マネージャーや役員にまで報告するとなると、報告文の体裁や時系列などの詳細にこだわってしまい、また上司からの横槍が入ることで修正を繰り返し、結果的に報告が遅くなる、ということが問題となっていた。

そこで、リスク管理の仕組みの策定と並行してICTツールを使ったBCPの取り組みの具体化を進め、安否確認システムに「エマージェンシーコール」を採用。稼働を始めたが「やはり第一報の収集で活用できる何かしらのツールが必要」と、さらなるICTツールの活用を検討した。「SNSはどうか」という意見もあり検討していたところ、エマージェンシーコールと連携でき、社内SNSとしても利用できるグループトーク機能を持ち合わせるBCPortalの採用に至った。

ツールを使いこなすためのルールを策定

物流・店舗の現場と本部をつなぐ連絡・コミュニケーションツールとして、BCPortalのグループトーク機能を利用するにあたり、最初に実施したのはルール作りだった。「上司が横槍を入れない」というルールを定め、現場のスタッフが躊躇なく情報を発信できるようにした。

ルール策定後は、従来の「報告の前にまず正確な事実確認を行う」という姿勢から、「事実確認をしている暇があったらとにかく第一報を入れる」という、スピードを最優先にした姿勢へと意識が変わったという。「横槍を入れないための周知資料も作成し、月に1度のリスク対策会議で共有しています。実際に運用を開始すると、勘違いや報告レベルではないような内容もあがってきますが、リスク管理の『危機を未然に防ぐ』という観点で考えると、それも無駄なことではなく、情報が現場からどんどん発信されてくる環境作りは大変に重要なことだと考えています。また、リスク管掌の役員が現場からのメッセージを直接受け取るようになったことで、現場のリスク担当者との距離が縮まったと感じています」(担当者)。

熊本地震の際も物流や店舗で活用

「熊本地震が店舗としてもツール浸透の大きなきっかけとなり、全体に行き渡ったと感じています。メールを打つよりも早いし構えなくていい。また、改めてまとめ直さなくてもいいので、その時間を復旧や別の対応業務に充てられるというのは大きいです。加えて、一カ所に集まる必要がなくなり、広範でかつ迅速な情報共有が実現しました。これは圧倒的な違いです。地震が発生した21時、深夜1時といった時間でも、もしBCPortalがなかったら限られたメンバー間の情報共有にとどまることで発生する無駄な確認作業や、関係者の参集に時間がかかり、初動が遅れていたと思います」と話すのは店舗運営部の担当者。情報を従業員が共有することで、災害を身近に感じ、復興支援への積極的な参加や、危機意識の向上にもつながったという。

熊本地震の際、同社の物流部門の子会社であるホームロジスティクスでもシステムが活用された。お客様に商品を届ける営業所と営業所に下ろす倉庫(DC)とのやり取りでBCPortalを利用。DCについては被害がなかったため、熊本の営業所へ被害確認で活用した。2日目・3日目については復旧に向けた動き出しにおいて、被災地への商品共有等について、九州地域をつないで連絡を取ったという。「ホームロジスティクスは、建家の状況、お取引様の情報、車両の状況、店舗・営業所への搬入など、役割分担をある程度しないと全体を把握できないのですが、メールの場合、この部分とこの部分はこの人とこの人がやり取りをしているとか、他の部分は別の人が対応しているなど、その後の情報共有の部分で全体を刷り合わせる必要がありました。また、同じことをいろいろな人に聞かれてその都度説明するという無駄も頻発していました。それが『いま誰が動いている』という状況がグループトークを見れば一目で把握できるので、情報共有の負担が圧倒的に軽くなりましたし、情報の抜け漏れがなくなったところが大きいです。ごくたまにしか発生しない大災害だけを想定して利用するのではなく、より発生頻度の可能性の高い、小さな事故等にも利用されています。店舗では店長・副店長・フロアマネージャーの連絡ツールとして通常業務でも利用しています」(店舗運営部担当者)。

安否確認から事態の収拾まで役に立つシステムとして、狙い通りの役割を担う「エマージェンシーコール®」と「BCPortal®」。同社では今後、システム利用の習慣化と災害を想定した定期的な訓練で、新しく加わったメンバーも利用する機会をつくり、備えを強化していくという。従業員の災害に対する意識向上と、感度を高くすることにも、このシステムが一役買っている。

(了)