2.リスクマネジメント事務局と現場の乖離

これは日本に限ったことではなく、ロンドンやリオでも苦労されていた点と感じており、リスクマネジメントの実践において悩ましいポイントです。

何らかのリスクが顕在化した時に対応するのは現場です。看過できないリスクであれば、日々改善活動など対応を実施します。こうしたことは現場では当たり前です。優先度の高い対応はリスクアセスメントとは関係なく進みます。

かくして、リスクアセスメントを管理する事務局と現場はそれぞれの作業を無連携に進めてしまい、信頼感を損なってしまうことになりかねません。こうしたことのないよう注意したいものです。

3.シナリオ読み合わせ型の訓練

上記2つのような課題を解消する有効な解決策が訓練や演習です。少し細かく示すと、①対応策の検証を目的にしたテスト、②対応策の習熟を目的にした訓練、③想定外の事態への対応能力向上を目指す演習、など目的別に、どの範囲(組織、機能、参加者、拠点など)をどんな手段(机上、実働など)、シナリオで行うのか整理して実施すべきです。

ロンドンでは、合同で演習を行い対応の改善に役立てるような演習が多く実施されていました。一方、日本では、限られた参加者により、事前に決められたシナリオの読み合わせ型の訓練が何度も行われる傾向があります。これらは、各組織間で事前に擦り合わせが行われ、一定の対応の習熟という点では大変有効ですが、最初からうまくいくことが前提となってしまうことが多く、変化の激しい事態への対応能力向上についてもさらに取り組んでいく必要があると思います。

自助、共助、公助の精神

最後に、五輪開催においては、安全と経済的な効果の両立が当然目指されるべきです。そのためにも、大会運営にあたる関連組織だけの責任ではなく「自助、共助、公助」の精神が適切に発揮され、国、自治体、企業、市民などが連携して危機管理に対応していくことが望ましいと思います。

例えば、大会開催期間中の人の移動や物流一つ考えても、事前にわかっている日時に、どのルートでどんな混乱が予想され、どんな協力をすればよいのか、また、そんな中、自然災害が起きても、安全第一に、経済の悪影響をできる限り避けるためには何ができるのかを、あらかじめしっかり考えておくべきです。起きてから考えても間に合いません、起きた後に誰の責任か追及しても取り返しはつきません。国、都や組織委員会が頑張ればすべてできるわけではないのです。

「自助、共助、公助」で備える時間はまだ4年ありますが、既に4年を切ったわけで、これからオールジャパンで日本の真価が発揮されていくことを願っております。

コルコバードを背景に撮影

 

(了)